誘惑蜘蛛 book
□誘惑蜘蛛
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涙が、でなかった。
動かない三人を見て、冷たくなったその頬に触れて。
未だかつてない哀しみに晒されてるはずなのに、涙がでなかった。
わたし、こんなに冷たい人間だった?
お父さん、お母さん、弟が死んで、泣かずにいられる冷徹な子だった?
こんなに哀しいのに、涙がでない。
こんなにくるしいのに。
「なんで、わたし、泣いてないのかなぁ、?」
頬に手を当てて、紡ぐ。
瞬間、後ろから力強く抱き締められて。
「受け入れられないなら受け入れなくていい、今は、何も考えなくていい」
「っ、!」
力強い腕の感触。
あたたかい、ぬくもり。
それに何より、紡がれた言葉に世界が動き出して。
「………あ、っ、」
急速に、理解してく。
大スキな家族は死んじゃった。
何もわからないけどただ、もう二度とわたしに笑いかけてはくれないことだけは理解して。
堰を切ったように涙が溢れ出る。
笑ってもらえない。
もう笑い合うことはない。
なんでこんなことになっちゃったの?
どうして、なんの前触れもなく。
突然だなんて、なにもわからないよ。
「っ、うあ、……っ、!」
震える体。
溢れる涙。
がむしゃらに泣いたわたしを、理事長はずっと抱き締めてくれてた。