誘惑蜘蛛 book
□誘惑蜘蛛
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「あれ、?悟空先生?」
「……おう、」
夕日がキレイな日。
夕食の買い物に行こうとすれば、玄関の前に悟空先生がいた。
誘惑蜘蛛
「来てくれたんですか?」
「ああ、……別に、プリントとかあるわけじゃないんだけど、」
「ありがとうございます、どうぞ?」
なんだか、歯切れの悪い悟空先生に不思議に思ったけど、プリントがない、と言っているのを聞いて理解する。
気にして来てくれたけど、用事があったわけじゃないってことを気にする必要なんてないのに。
「嬉しいです、わたしのこと気にしてくれて」
「俺、……桜沢に言えることも、できることもないんだ。……けど気になって、顔が見たくて、声が聞きたかった」
部屋に入って一番、悟空先生が言葉を紡ぐ。
いつも明るくて元気な先生が、いつになく落ち込んだ顔をしているのが新鮮で、それと同時にそんな顔をさせてるのはわたしなのだと実感。
「わたし、ゆっくりですけど受け入れてます。前に、進みたくて」
わたしのせいで、先生に元気がないのは嫌だった。
先生には、いつだって笑っていてほしくて。
「わたし、先生が笑ってると落ち着くんです」
「そ、か、なら俺、ずっと笑ってる。桜沢がそれで元気になるなら」
ニッコリと、いつもみたいに笑った先生に安堵する。
先生の太陽みたいな笑顔は、まるでわたしを導く光みたいだ。
世界はあたたかいんだ、と、教えてくれてるみたい。
「桜沢、」
ふいに、腕を引かれて先生を見上げる。
真剣な、瞳に囚われて。
「………っ、あ、」
頬に、手を添えられて目を見開く。
真剣な瞳から、目を逸らせなくて。
「っ、悪ィ、」
「いえ、」
頬に添えられた先生の手が、ゆっくりと離されて。
謝られたけど、わたしは謝られるようなことをされた覚えはない。
「また来る」
「あ、ありがとうございました、先生」
足早に去っていく先生の背中に、声をかける。
わたしは、あの瞳が何を想っていたか知らない。
けど。
(キス、されるかと思った、)
きっと、勘違いだ。
わたしの思い違い。
先生の触れていた頬に触れて俯く。
先生の手はとても、あたたかかった。
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