長編

□SAKI ◆
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SAKI 《シュビレーおまけ》

 私は横溝早紀。
 でも、今いる祠堂学院での名前は佐相真美。
 真美は、私の永遠の恋人の名前――。
 もう今生で結ばれることはないけれど、佐相のおじ様の言葉どおり、この『音楽』という道を歩ききって、いつか真美にめぐり会ってみせると決めた。


 真美を失った絶望から死にたいという自暴自棄になった私を救ってくれたのは、ひとりの高校生バイオリニスト。
 わが従弟、井上佐智の幼友達(バイオリンを師事していた先生が一緒だっただけでそう言うのかは不明だけど)だったらしい、彼と同い年の葉山託生くん。
 なんと彼は、佐智の幼馴なじみにして私の『婚約者』(あくまで親同士の話よ。って、見てれば解るわよね)のギイこと崎義一の長い片想いの相手で。
 まあ、今はめでたく両想いみたいだけど。
 託生くんの『音』だけしか知らなかった私が実際の『彼』に会って驚いたのは、雰囲気がほんわかしているせいか、恐ろしいほど母性本能をくすぐられること。
 なんだか天然くんで、思わずぎゅーって抱きしめてあげたくなるような瞬間が、実はあったりするのよね。
 そんな託生くんのキャラクターと奏でる音とのギャップ(いい意味でよ)が何とも言えない魅力なのよね。
 そうねぇ、あのマリ子叔母様が絶賛するのもうなずけるし、あのギイがメロメロになっているのも、なんだか解る気がする。
 まあ、佐智から聞いたところによれば、ギイに関しては『音』がきっかけじゃあなかったみたいだけどね。
 なんにしてもあの世界、殺伐としてるからなぁ。あんなオアシスがあったら、もうど〜っぷり浸かりたくなっちゃうわよね。

 それにしてもあらかじめ佐智から聞いていたから、覚悟はしていたけれど、実際託生くんに近付いた後のギイをはじめとする面々の視線がなんと痛かったことか。
 特にギイなんて、地元(アメリカ)じゃかけてもいない伊達眼鏡なんてかけちゃって、その奥から殺人光線かって視線をバシバシ飛ばしてきて。
 まあ、それだけ彼、託生くんが愛されている、ってことの証明でもあるんでしょうけど。
 しっかしまあ、あの小憎たらしいぎーたん(もちろんイヤミで使っていたのよ、この呼び方。当時はお子ちゃま扱いすると、本っ気でイヤがってたのよね♪)が彼を前にするとあんなに可愛くなっちゃうとはね。
 託生くんてホントにすごいわ。
 それとは別に、マリ子叔母様に良く似ていると言われる私の顔に、あのギイが全く気づいていなかったなんてホントに驚きよね。
 そりゃあ確かに、ギイが日本で託生くんに片想いしたらしいあたりから、私たちは直接会うことはなかったけれど、人間、そんなに顔なんか変わらないわよね?
 ましてや私は『ますますマリ子さんに似てきたね』なんて言われているのに。
 まあ、おかげで佐智のリベンジはバッチリ成功したことだし、よしとしましょう。
 あとは、私の方の目的を遂行するばかり。
 託生くんが『演奏家になる』という希望を持ってくれるだけでいいのだけれど。

 ギイが知っている私の身分。
 ――ジュリアード音楽院 鍵盤楽器科(ピアノ)学生

 でもギイも知らない真実もある。
 今の私の公式な身分。
 ――ジュリアード音楽院 鍵盤楽器科(ピアノ)教授

 企業家に嫁ぐことはあっても、自身が企業家になる予定(才覚)のなかった私は、幼い頃から興味をもつものに対しては、何でも与えられてきた環境の中で、バイオリンでエリオット教授に出会い、最終的にピアノを選んだ私はジュリアードに進み、サマーキャンプでフルート奏者を目指していた従弟の佐智と同い年の真美に出会った。
 まあ、それはいいとして。

 できることなら、託生くんをジュリアードに連れて行きたい。
 彼の音には、『愛』が溢れているから。
 私のように枯れかかった者にまで注がれてしまうほどの愛が音に満ちているから。
 だから私は彼にもっと学んで欲しいと思っている。
 ゆくゆくは、彼に佐智と同じ様に世界の檜舞台に出て欲しいと思っている。
 あの『愛』に満ちた音がギイだけに独占されていいなんてことは、絶対にないのよ!
 あ、ちょっと私情が出たかしら。

 ギイによれば、託生くんはスタンス以前に『語学力』と『費用面』と『環境』で悩んでもいるらしいんだけれど。
『語学力』は留学生用の語学スクールもあるし、『費用面』は奨学金制度がある。
 託生くん自身は知らないことだけれど、彼の『音』は奨学金を受けるに値する『音』だと私の感性は言っている。
『環境』にしたって。実際に入学してしまえばわかることだけど、恋人だって忘れそうになるほど、実際はハードなのよ、授業って。
 ほとんど倒れる限界まで弾いて弾いて弾き捲くって、それでも時間が足りない! と焦りと苛立ちにまみれるんだから。私が剥離骨折したくらいなんだから、解ろうってもんじゃない?
 あ、ちなみに三年前の剥離骨折は、学生時代の古傷の再発だったのよね。
 まったく、誰よ。骨折後は骨が強くなる、なんて言ってたのは。
 ホント、あれは予想外の出来事だったのよね。
 あ〜あ、あとは託生くんの『覚悟』が決まってくれればなぁ。
 それに“教授”も託生くんを連れて行けば、喜ぶでしょうしね。
 休学している私を気遣って、見舞ってくれたエリオット教授。
 私の部屋でヘビーローテーションでかかっていた『CANON』と『序奏とロンドカプリチオーソ』の演奏者が託生くんだと知った時の教授の嬉しそうな顔といったら。
 だからね、ギイ。


 実は私は、ジュリアード代表として、託生くんのプレ試験に来たのよ、とは絶対に教えてあげないんだから♪

END


え〜っと、あっちこっちかなりねつ造してます。
ジュリアード、調べたけど、プレ試験できるとか、出てこないし、たぶんないと思うし^^;
あ、早紀ちゃんの年齢については(女性なので)あえて公表していませんが、実はけっこう上の設定です。
なので、ちっちゃこいギイこと「ぎーたん」は数々のネタを早紀ちゃんに握られているので、シュビレー本編で「コンナヤツ」発言になった、という話が♪^m^

そのうち、また、長編を書くことがあるかもしれません。
その時は、懲りずにお付き合いいただけると嬉しいです♪^^/

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