お題:学園萌50のお題(1)
□07、通学路:託生(4月)
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学園萌50のお題(7) 配布元:BLUE100Titles
通学路
ぼくは一人、寮への道を歩いている。
今日は土曜で、八津くんと街へ出ることになっているから、早々に支度をして学食で昼ご飯を食べなきゃならない。
足早に歩いていると、どこからか強い視線を感じたのと、後ろから声がかかったのはどちらが先だったろう。
一先ず声に振りかえると、そこにいたのは、午後から一緒に出かける八津くんで。
予定がないなら一緒に戻って、昼ご飯を食べようと誘ってくれた。
特に異議のないぼくは、八津と並んで寮へ向かいながら、視線の主がいるであろう校舎の屋上に目をやる。
はっきりとは分からないが、たぶん間違いなくいるであろう、ギイ。
ぼくは八津と歩きながら、去年のことを思い出していた。
「託生、ほら帰るぞ」
「…あ、うん」
ギイに促されて、教科書をまとめて教室を後にする。
戸口で待っていてくれたギイと並んで歩くのにも随分と慣れた。
他愛ない会話がふと途切れて、
「…なあ」
「なに?」
「楽しいな」
「…楽しい?」
寮に帰るのが?
「託生と並んで歩けるのが、だよ」
ぼくの周りに飛び交っているクエスチョンマークに気付いたギイがウインク付きで言う。
「…なんでぼくと並んで歩くのが楽しいのさ」
「なんだよ、託生はオレと並んで歩くの、楽しくないのか?」
拗ねたように言うギイにいささか呆れながら
「…そんなことないけど…」
「けど? なんだよ」
「…ギイと歩いてると、なんだか視線が痛くてさ…」
「そんなの気にするな。みんなが見てるのはオレで、託生じゃないんだからさ。ほら、託生もオレのことだけ見てれば気にならないだろ」
…確かにそうだし、そうなんだろうけど…。
「…恥ずかしいよ」
「恥ずかしくない。オレ、ホントは肩か腰抱いて歩きたいところを我慢してんだぞ」
「はい!?」
ナンテオソロシイコトヲイッテクダサルンダ、コノ男ハ!
そんなぼくなどおかまいなしに
「それを並んで歩くだけにしてやってるんだぞ、オレは。でもオレには、これこそが夢だったからな」
「…え、夢?」
ぼくと並んで歩くのが?
「そ。去年、片倉と帰ってくのをオレがどんなに羨ましかったと思う?」
ぼくは言葉が出なかった。
だってそうだろう。
ぼくと並んで、話しながら寮に帰る、なんて別に大したことじゃない。
ないけれど、確かに去年のぼくには絶対ムリというか、あり得ないことで。
だって、何よりぼく自身が避けていたから。
どんなに心に鍵をかけても、ふとした瞬間にギイを追ってしまうぼくを絶対にギイに気付かれるわけにはいかなかったんだから。
ギイがぼくを気にしてくれるのは、彼がやさしくて、クラスに馴染めないぼくに同情してくれているからだと、彼に好かれているからではないからだと、自分に言い聞かせていたから。
でないと、つい期待してしまいそうで。
ぼくなんかが抱いてはいけない夢を見てしまいそうで。
だから、ギイをぼくはできるだけ避けていたのだ。
でも今年の4月。
ぼくにしてみれば青天の霹靂というか、驚天動地というか、ぼくの身の上に天変地異にも等しいことが起こって。
そして今、ぼくはギイの恋人というポジションで彼と寮までの短い通学路というにはお粗末な道を並んで歩いている。
ギイ、ぼくこそ夢のようだよ。
「惜しむらくは、この道が短いってことだよな」
ほら、もう着いちまった。
ギイが寮の玄関ドアを開けてくれる。
そして、ぼくは気がついた。
去年、この道はぼくには随分と長く感じていたことを。
どんなに急いでも、なかなかたどりつかなかった。
でも今年は違う。
隣にギイがいるだけで、短いと感じてしまう。
「ギイって、魔法使いだったりして」
うっかり呟いたぼくに
「はあ? 託生、おまえ、前後の脈絡なさすぎ」
ぼくの頭をくしゃりとかき混ぜて、ギイが笑った。
今、ぼくの隣にギイはいない。
けれど、ぼくの中のギイと歩くだけで、やっぱりこの道を短く感じるぼくがいて。
ねえ、ギイ。
どこまでいけるか判らないけれど、君が許してくれる限り、ぼくは君の隣にいてもいいんだよね。
ぼくの歩く道が君に続く道なら、ぼくは迷わず歩いて行くから――。
END