お題:学園萌50のお題(1)

□01、入学式:託生(4月)
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学園萌50のお題(1) 配布元:BLUE100Titles
入学式

 祠堂学院高等学校。
 ぼく、葉山託生はこれからの三年間をこの全寮制の学校で過ごす。
 人と係わること、触れ合うことができないぼくを持て余すことなく受け入れてもらうことなどとうてい無理だろうけれど、それでもかまわない。
 受け入れてもらいたいとも思わない。
 理解されないことにも、期待しないことにも慣れたぼく。
 腫れ物に触るようなあの家から逃げ出したところで、ぼくは何ひとつ変わることなどないけれど、あの忌まわしい思い出から少しでも遠ざかることができるなら、それだけでよかったんだ。
 そんなぼくをもしかしたら父さんたちは解っていたのかもしれない。
 それとも、あの人たちにとってはぼくを見なくて済むいい機会だったのかもしれない。
 進路相談の時、全寮制の学校を選んだぼくを「託生が選んだのなら」と送り出してくれた。
 両親に馴染める日が来るなんて、思わない。
 兄さんのことを思い出にできる日が来るなんて、思わない。
 ぼくが誰かと自然に肩を並べて歩く日なんて、絶対に来ない。
 ぼくは、ひとりになるために、ここに来たのだから。

 桜咲く校門に立ち、ぼくはこれから過ごす校舎を見つめていた。



「た〜くみ。なにぼ〜〜〜っとしてるんだ?」
 いつの間にか立ち止まってしまったぼくを置いて先を歩いていた片倉利久がぼくに声をかける。
「…あ、いや、今年も桜がきれいだなって思ってさ」
「あー、桜なー。ホントに祠堂の桜ってきれいだよなー。って、そういや託生、去年の入学式ん時も桜見に来てたよな?」
「……よく覚えてるね、利久」
「そーりゃ、もう学校に行かなきゃならない時間なのに、託生ってば急にいなくなるからさ。入学式の日から遅刻かって、けっこう探し回ったんだぜ。どっかで迷子になったのかと思ってさ」
「…いや、確かに迷子になった挙句、と言えばそうだったんだけどさ」
「あー、やっぱりそうだったんだ」
 くすくす笑う利久に
「…なんだよ、そのやっぱり、ってのは」
「いや、俺が託生に声かけた時、ちょっとほっとしたような顔してたからさ。触られるのが苦手でも、俺、嫌がられてはいないんだなって思ったんだ。だったら、仲良くできるなってさ」
「……利久…」
 ぼくがひそかに感動しているうちに、利久の話題は春休みが少ないだの何だのと愚痴になってしまい言葉にする機会を失ってしまったけれど。
 利久。君と出会えたことは、ぼくにとって嬉しい誤算だったよ。
 誰かがぼくを心配してくれることがあるんだって、気づかせてくれたのは君だから。
 もしかしたら、来年の入学式の日を迎えたとき、ぼくはまた何か新しいことに気付けているかもしれない。
 ぼくは、この学校に来て、よかったと思ってるよ、利久。
END

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