お題:学園萌50のお題(2)

□42、弁当:託生(2年生5月)
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学園萌50のお題(42) 配布元:BLUE100Titles
弁当

 弁当を手にギイに連れられてやってきたのは雑木林の日だまり。
 ギイ曰く、体ひとつ分開けた『ぼくとの安全な距離』で並んで座る。
「たっくみくん♪」
 上機嫌すぎるギイにイヤな予感を隠せないぼく。
「……なんだよ、ギイ」
「こ〜ら。なんだよ、今の間は」
「…いいだろ、べつに。それより、なんだよ」
 この状況でこの呼び方。これはもう…
「託生のから揚げ、一個くれよ」
 ……やっぱり。
「イヤだよ。ぼくのメイン、取らないでよね」
「じゃあさ、オレのおかずとトレード。これなら文句ないだろ?」
 今日のギイの弁当はミックスフライ弁当。
 祠堂の揚げ物っておいしいし、トレードならまあ、いいかな。
「…いいよ」
 ぼくはギイに弁当箱を差し出した。
「サンキュ」
 ギイは満面の笑顔でから揚げを取るとそのまま口に放り込み、ケチャップのついたフライをひとつ、ぼくの弁当箱に入れてくれる。
「…ありがと」
「いえいえ、どういたしまして」
 他愛もないことを話しながら、弁当を食べる。
 ひそかにそんな小さな幸せをかみしめながら、ギイがくれたフライにかぶりついた。
「…!」
「うまいだろ? タクミくん」
 ニヤニヤ笑いながら、ぼくを覗き込むギイ。
 ぼくは口に入れたものを出すわけにもいかず、大急ぎで咀嚼して飲みこむ。
 調理法のせいか独特の味はほとんどなくなっていたが、ぼくが目にしている断面は見間違えることなく…
「……なんで? どうしてミックスフライ弁当にピーマンの肉詰めが入ってるの!?」
 そう。
 ギイがトレードでぼくにくれたのは、本来のミックスフライ弁当には入っていないピーマンの肉詰め(のフライ。ケチャップ多め)。
「そりゃあ、オレが学食のおばちゃんに頼んだから」
「そんなワガママ、聞いてもらえるものなの?」
 そんなの、聞いたことないぞ。
 もしそんなことができるなら、ぼくはぜひとも緑黄色野菜を少なく(少なければ、ぼくだってそれなりに食べられるし)してもらうのに。
 などと、赤池くんに知られたら、間違いなく雷が落ちるであろうことを考えていると
「聞いてもらえるわけないだろ。普通なら」
 ……普通なら。そうだよね。でも、ここにあるんですけど。通常の弁当には入っていない一品が。
「ピーマンはオレの持ち込み。肉詰めの中身はメンチカツだよ」
 だからオレの弁当にはメンチカツが入っていないのだと、ギイが説明してくれたのだが
「なんでわざわざそんなことを…」
「そりゃあ、いとしのタクミくんに少しでも先入観なくピーマンを食べていただこうという、やさしい恋人の想いがあるからだろ」
 …ああ、そうですか。
「ほら、口つけたんだから、残すなよ。学食のおばちゃんとオレの愛、無駄にするなよ」
 悪戯っぽく睨むギイを横目に、いささか脱力しながら、覚悟を決める。
「では、ありがたくいただきます」
 気分的には、えいやっと口に放り込む。
 そんなぼくを見つめて
「よくできました」
「!」
 ドキリとするような甘い笑みをぼくにくれて、頬に派手な音のキスをひとつ。
 あまりの出来事に咀嚼途中のものをゴクリと飲み込んでしまう。
「ははっ、託生、美味かっただろ?」
 覗き込んでくるギイから、慌てて視線を外す。
 でも、たぶん耳まで赤くしていてはバレバレなんだろうと思う。
「なあなあ、託生〜?」
 ちょんちょんとブレザーをつついてくる。
「…まずくは…なかったよ」
「そうかそうか」
 安全な至近距離に戻ったギイが食後のコーヒーを満足げに飲み干すのを横目で見ながら、ぼくは小さくつぶやいた。
「……とってもおいしかったよ、ギイ」

END

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