お題:学園萌50のお題(2)

□48、アイドル:章三(3年生7月)
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学園萌50のお題(48)   配布元:BLUE100Titles
アイドル

 それは、毎年の恒例行事ともいえる新聞部、写真部の合同企画だった。
 題して『一年生限定企画! 憧れのアイドルは誰だ!?』
 学校生活にも慣れ、全校生徒の顔も一通り見慣れた7月の頭に、平たく言えば人気投票が行われる。
 まあ、世に言うミスコン…いや、ここは男子高だから、ミスタコンってやつか。
 新聞部が投票の準備から開票までの全てを行い、そのベスト20を写真部が(素敵な笑顔ということでもちろん)盗撮してベストショットを票とともに新聞に載せて発表というものなのだが。
 今年はふたを開けるまでもなく予想できてつまらないと思いつつ、発表されたそれを見てみる。
 やはりトップは断トツでギイだった。
 次いで、三洲、高林。
 まあ、この三人はベスト5常連だよな。
 吉沢、僕、野沢、矢倉、真行寺、岩下、平沢…と見慣れた連中の名前がずらりと並ぶ。
 そして僕はあることに気がついて、深くため息をついた。
 …この時間だと、温室だな。
 僕は委員会帰りの足で温室へと向かう。
 聴こえてくるバイオリンの音色。
 中に入ると、真行寺が僕に気付いて目礼を送ってくる。
 僕は手を挙げて応える。
 葉山の練習の邪魔をするつもりはないので、そのまま静かに椅子に座って葉山が弾き終わるまで聴いていた。
 ふっと音が途切れて、葉山が目を開く。
 真行寺の拍手に葉山がこちらを見て
「あれ、赤池くん。来てたんだ」
 バイオリンを肩から下してテーブルに置く。
「ああ、さっきな。なんだ、もう終わりなのか?」
「少し休憩。けっこう弾いてたから」
「そうか。そう言えば、真行寺。ベスト10入り、おめでとさん」
 新聞をひらひらと振って真行寺に話を振る。
「あ、もう出たんすか? 俺、まだ見てないんすよ。見せてもらっていいっすか?」
「どうぞ」
 真行寺に新聞を渡す
「ねえ、赤池くん。それがどうかしたの?」
「…葉山、お前まさかこの企画、知らないワケないよな?」
「どの企画?」
 …ウソだろ? おまえ、この学校に何年いるんだよ。
「はぁ〜、さっすがギイ先輩。ダントツトップっすねぇ。アラタさんとの差がこんなに開くとは思ってなかったけど…。
 あ、赤池先輩はベスト5入りっすね。おめでとうございまっす」
「…ヤローに人気があってもウレシくないんだがな、僕は」
「ま〜ったまた。人望があると思えば…あれ?」
 …どうやら真行寺も気づいたようだな。
 固まった真行寺の横から新聞を覗き込んだ葉山が
「ああ、これか。ふーん、1位はやっぱりギイなんだ」
 などとのん気に呟いている。
 コイツはまったく気づいてないな。
「…葉山」
「なに、赤池くん」
「おまえ、今晩は何があってもゼロ番を訪ねろよ。いいな」
「へ? なんで?」
「なんでもヘチマもない。いいから、今晩中に必ず行けよ」
「…はあ」
「…葉山サン、悪いこと言わないっすから、今晩は必ずギイ先輩んとこ行った方がいいっすよ。っていうか、行ってください。お願いします!」
 真行寺が深く頭を下げる。
「…よくわかんないけど…とにかく、今夜中にぼくがギイの部屋を訪ねればいいんだね?」
「なんなら、このまま夕食を摂って、僕がそのまま連れてってやる」
「は?」
「赤池先輩、その方がいいっす。たぶん、一刻も早い方が…あ」
「ん?」
 真行寺が温室の入り口を見て固まっている。
 振り返ると
「よぉ、トップ2のお二人さん」
「葉山」
 僕の言葉をきれいに無視して、三洲が葉山に声をかける。
「あれ、三洲くん…にギイ。どうしたの?」
「葉山、悪いが今夜は崎の部屋に行ってくれ。ってことで伝言終了。俺は失礼するよ」
 三洲は用件だけを言い終わるとさっさと温室をあとにした。
 その後を真行寺が慌てて追いかける。
 というよりは…逃げたな、真行寺。
 逃げ遅れた僕はと言えば、
「ということで、そろそろ夕食に行こうか。どうするギイ。その後そのまま部屋まで一緒に行ってやろうか?」
 葉山を連行するなら、その方がいいだろう?
 僕の言外の意味は相棒には通じたらしい。
「そうだな。ってことで、行くぞ託生」
 にっこりと笑いかけられて、葉山が凍りついている。
 そりゃあそうだろう。顔は笑顔でも怒りのオーラ出まくりだしな。
 原因が解っている僕と解っていない葉山を連れてギイが歩いていく。
 新聞を手にした一年たちもギイの無言の圧力に誰も近付けない。
 ましてや事情を察している二、三年たちは近寄っても来ない。
 そして夕食後、葉山はギイに連行されていき、僕は関係各位から葉山の所在を確かめられた。

「あ、赤池。葉山、見なかったか?」
「心配するな、矢倉。葉山なら、もう連行されてったよ」
「そっか…。しっかし、まいったな。よりにもよって、ほぼ全員、だもんな」
「…まあな。気付いてないのは、当人だけってのがミソだしな」
「やっぱり気付いてないのか、葉山」
「まったく」
「…はあ。罪なオトコだな、葉山って」
「ま、ギイの自業自得でもあるさ。僕らを信用しないで先走った4月の罰だと思えば、妥当と言えば妥当だろう」
 写真部の奴らもなぁ。本人の笑顔だけ、切り取ってくれればいいものを。
 そう。写真部が盗撮したベスト20の顔写真。
 写真部も認めるベストな笑顔のショットを狙ったその輪の中のどこかに葉山が写っているのに、しかもそれがほぼ全員なのに、肝心のギイの写真にはいないとくれば、ただでさえヤキモチ焼きの恋人がどうするか、なんて火を見るよりも明らかなのだ。
「…なあ、赤池」
「なんだ?」
「ってことは、ダントツの隠れアイドルって、葉山…ってことか?」
「……」
 さてさて、この事実に一体何人の一年が気づくやら。
 明日からのことを考えると、頭の痛い僕だった――。

END

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