Upside down Library

□片付けられない男たち
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卒業式。



優しくそれを包む青い空。温かく見守るそよ風。泣きじゃくる生徒たち。共に泣き、それでも微笑み子を祝うおとうさん、おかあさん。


「ああ、なんてすてきなんでしょー。」


おそらくここに来れるのも最後であろう。
上杉は屋上でその情景を他人事のように頬杖をついて眺めていた。


「お前も卒業だぞ。」


「なんじょー!でひゃひゃ、なんじょー、も卒業じゃん!」


背後から南条の声がすれば(正確に言えば、誰の声がしてもそうする)、にかっと人懐っこそうな笑顔で上杉は振り返った。


「…そうだな。」


「………。ねえ、なんじょー。」


その南条の無感情な横顔を眺め、やがて口を開いた。


「卒業って、何かなァ」


「なにかを終わらせる時に使う言葉。しかし終わってしまうというマイナスなイメージをかき消…」


「だーッ!そうじゃ無くて!…俺様達、何から卒業するのかなァって。」


「…ふん。何かの節目に他の事を始めるのも終えるのも人の勝手だ。」


いつもとは違い黄昏た顔でまた屋上の外へ目をやる上杉に、言いたい事が何となくわかったのか南条はそう言葉を返す。


「……捨てたいものでも、あるのか。」


「…うん。」


優しい風すらかける言葉は無く。
ただ通り過ぎたそれは哀愁を漂わせるだけだった。


「あーーーー、やっぱりいいや!」


「何故だ。捨てても構わんぞ。」


「だってさァ、捨てたくないものもあるんだよね。」


「捨てたいものだけ捨てればいいだろう。」


「…そんなの、やだよ。俺様を俺様たらしめるものに、そんな安っぽいもんは無いしよォ。嫌なコトも、良いコトも、全部、全部とっておくよ。」


その短い会話に様々な上杉の表情が垣間見えた気がして、ああ、大概自分たちも大人になったのだな、と感じた。


「なら、こんなところに居るべきではないだろう?安っぽい思い出になるぞ。」


「いーのっ。なんじょーといられる思い出に安いものは無いの!」


「安っぽい台詞を…。」


「いーじゃんっ!なんじょーちょー愛してる!…だから、捨てないでね。」


「阿呆!叫ぶな!ふん、捨てられないさ。こんな最上級の思い出は。」










END!



「やーん!なんじょーったらキザー!」

「うるさい!」





  
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