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□Schwangerschaft(シュヴァンガァシャフト)・05
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「…うん。今日 も まだ 産まれない みたい です。…うん。また 明日。おやすみ なさい。」
パクン。
ふーっと、ケータイのフラップを閉じて、ため息をつく。
通話の相手は阿部くんで、内容は出産予定日を2日過ぎても産まれて来ない「ビックボー」の事だ。
ーもう 産まれて きても 大丈夫 だ よ?
出産予定日の早朝に、陣痛とは明らかに違う(初産のオレでも違いがわかるくらいの)激痛がはしって、産院の夜間救急で検査したら
、赤ちゃんはまだ出てくる気配が無いのに胎盤が下がってきていることがわかった。
一応、万が一の時の為に、帝王切開の手術の同意書とか麻酔薬の同意書とかのいろんな書類に阿部くんがサインし終わった頃、阿部くんは出勤しなければならない時間になってしまった。
「陣痛が始まって、破水したら、必ず連絡くれ。」
お医者さんは、今日明日中に出産になるだろうと言っていたから、立ち会い出産希望の阿部くんは名残惜しそうに出勤して行った。
その日が2日前のできごとだった。
オレは出産予定日の日から産院に入院中で、次に家に帰るのは2つ身になって、退院の許可の下りる頃になるのだろう。
当初の予定では、胎盤が下がってきているから直ぐ帝王切開で赤ちゃんを取り出す予定だったのだが、赤ちゃんの心音が弱っている為に麻酔薬が使えないことが分かり、お医者さん達は子宮の膜をグリっとはがして自然分娩を促す方法に切り替えたらしい。
「よいしょ!」
かけ声を1人ゴチて、大きなお腹を抱えて、病室の自分のベッドに戻った。