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□崩壊五秒前
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むせかえるような、甘い香。
誘われているような、口元。
狂ってくれといわんばかりの暑さ。
『話があるんです』
そういって、彼女は突然部屋にやってきた。
それも、何を考えたのか。
わざわざ着物に着替えて。
黒に近い藍色。
不思議とよく似合っていた。
『何か用?』
胡坐をかいていた僕の前に正座をした彼女を、なるべく直視しないように。
できるだけ冷たく。
『雲雀さん。抱いて下さい』
一言。
-何を言っているんだろう、この草食動物は。
思わず彼女に目を向けると、彼女は見たことのないような顔をしていた。
何かを諦めたような。
疲れきったような。
『何で?』
『ハルは、ツナさんが好きで。ツナさんは京子ちゃんが好きで。京子ちゃんは雲雀さんが好きで・・・・』
-言うな。
『雲雀さんは、ハルが好きだから』
-言わないで。
『利用するんです、貴方を』
-そんな目で。
『女の子だって、好きでもない人と』
-そんなことを。
『寝れるんですよ?』
-言わないでくれ。
何かが音を立てて崩れた。
前から、少しずつ崩れ始めていたんだ。
知っていた。
無言で三浦を押し倒せば、待っていたかのように彼女は首に腕を回した。
微かに香る、シャンプーの匂い。
それに混ざった甘い香水の匂い。
甘ったるいのに、どこかそっけないような。
そっと触れるだけの優しいキスなど、してやらない。
むさぼるようなキス。
優しくなんて扱ってやらない。
一気に胸元へ手を入れ、直に胸を撫でる。
「んっ・・・・・」
ぴくりと彼女の体が反応を示した。
そして、三浦がぼくを不思議そうに見上げる。
「何で笑ってるんですか?」
だって、笑うしかない。
崩壊五秒前
こんな形でも、彼女に触れられて嬉しい、なんて。
言えるわけがないじゃないか。