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□あいしてる
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「何?これ」


一瞬何のことかわからなかったんですよ、本当に。

だって恭弥さんは覚えてると思ったから。

だって恭弥さんを信じていたから。



一年前。

ちょうど一年前の今日。

『ハル』

『なんですかー?』

『結婚しようか』

『いいですね』

『まぁ、君に拒否権はないけどね』

『ハルが拒否をすると思ってたんですか?』

『いや、全く』

『やっぱり』

その前のデートの帰りに聞かれました。

《次会う時、どっか二人で行きたいところある?》

しかもメールで。

普段はそんなこと聞いてこないから。

絶対なんかあるとは思ったんですよ。

だから、《夕焼けがきれいな海がいいです》って送ったら、返信なし。


そうしたら、本当に次のデートで海に連れて行ってくれて、そこで静かにプロポーズされたんです。

ハル、悲しくないはずなのに、いつの間にか泣いてたみたいで。

だって海がぼやけて見えたから。

最初は泣いてるってわかんなかったんですよ?

それくらい自然にうれし涙が出てきたんです。

だからきっと、本当にうれしかったんです。



『雲雀さん』

『何?』

『ハル、毎年のこの日には髪を切ることにします』

『・・・・・は?』

『これから私は、雲雀さんというデンジャラスなマフィアのお嫁さんになるんですよ?』

『・・・・だから?』

『だから、今日から私も、自立するんです』

『別に、ハルが自立する必要ないんじゃない?』

『いえ、マフィアの雲雀さんはいつ死んでしまうか分かりませんから』

『・・・・意外と物騒なこと言うね、君』

『雲雀さんが死んでしまった時、ハルは雲雀さんを笑顔で見送れるようになりたいんです』

『何?君、僕が死んだら大爆笑して喜ぶつもりなの?』

『もうっ!!雲雀さんには乙女心がわからないんですか?!』

『分かりたくもないね、そんな物騒な心情なんて』

『物騒だなんて・・・・雲雀さんだけには言われたくありませんね・・・・・』


あの時は雲雀さんのせいでうやむやになっちゃいましたけど。

あれはハルなりの決心だったんですよ?

雲雀さんはいつ死んでしまうかわからないから。

死んでしまったら、もし・・・・、そんなことがあったら、ハルは泣くかもしれません。

泣くだけじゃすまないかもしれません。

だけど、絶対笑っていたいんです。

泣いてるだけじゃ嫌なんです。

だって、お葬式にはきっとツナさんたちが来るんでしょう?

恭弥さんのことを信じて、頼りにして、ずっと一緒に戦ってくれた仲間が来るんでしょう?

そしたら、ハルは恭弥さんの代わりに笑ってあげるんです。

それで、貴方の代わりに「ありがとう」って言ってあげるんです。

きっと恭弥さんは死ぬまでほかの人に微笑みながらお礼なんて言わないだろうから。

ハルが恭弥さんの気持ちを伝えられたらいいな、って。

そんなときに泣いてばっかじゃダメダメでしょう?

それに・・・・・、

恭弥さんと過ごした日々の最後が涙で終わるなんて嫌ですよ、ハル。

笑って「幸せでした」って伝えたいですからね。




そんな決心を、初めて実行したときはちょっとドキドキでした。

美容院に行ってカットしてもらって。

さっぱりとした髪を見てたら、やっぱりハルは雲雀さんのお嫁さんなんだなぁ、って思ったんです。



そんな私の決心の内心を知っていたのは獄寺さんだけでした。

前に二人でお酒を飲んだ時に、酔っぱらったハルが話したんです、獄寺さんに。


そしたら
《もうすぐ雲雀、帰ってくるんだろ?もしあいつがお前の一大決心とやらを忘れてたら、あてつけとして駅前のケーキ屋さん、行かねぇ?》

《恭弥さんが忘れるわけないじゃないですか!》

《わかんねぇだろ、そんなの》

《絶対ありえないです!》

《じゃあ賭けてみようぜ?楽しみだな、一週間後》

《泣きを見るのはそちらですからね!!》



なのに、恭弥さん、見事に忘れてましたね。

ハル、久々にムカッときちゃいました。

だから獄寺さんとケーキ屋さんに行くことにしたんです。

あてつけ、として。



そしたら、恭弥さん。

すごく怒って。

すごく強引で。

すごく不安そうで。

すごく悲しそうで。



大丈夫ですよ。

ハルは一生恭弥さんのものなんですから。

恭弥さんは一生ハルのものなんですから。


きっと貴方の愛は、鋭くて不器用なんでしょう?

だからハルの愛は、柔らかくて包み込むような。


そんな愛をあげたいんです。




あいしてる



「愛してますっ、・・・・恭弥さんっ・・・」


だから貴方の愛を受け止めるんです。


たとえそれがどんなに鋭くても。
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