ファルシャング
□03
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无が倒れた。无の中で何か音が響いて渦巻いているのがわかる。でも…俺には无ほどちゃんと聞こえないから。
(誰、なんだろう…)
无に異常があったわけじゃない。多分、病気じゃないんだろ。でも…痛そうだった。
「お前さ、」
『…?』
「何か聞こえたのか?」
『…え?』
无の眠る病室で花礫くんと二人で无の様子を看ていた。花礫くんの真っ直ぐな目に俺が映っている。
「无の奴、すげえ耳いいんだよ。でも、お前さっきなんか言ってたろ。それ、无に聞こえてるもんがお前にも聞こえたってことじゃねえの?」
『…っ、』
花礫くんは観察力が高い。細かいことでもちゃんと見てるし、聞いてる。狡賢いって言ったらそれまでだけど。
「花っ…」
「……ビビった、」
『无!』
眠っていた无が飛び起きて、花礫くんにしがみつく。花礫くんを見た无の表情が青ざめた。
『…无?』
无の“音”がオカシイ。
「“花礫はいらない”」
言葉に違和感がある。无自身の言葉ではないような、誰かに言わされたような。
无の言葉に怒って出ていった花礫くん。出ていった扉を見て、无の目から涙が溢れた。
『…无っ、』
「うわあああああああん」
无にぎゅうと抱き着いた。无は大声で泣いていて、俺は回した腕で背中をそっと撫でた。
『无は花礫くん大好きだな、』
「うん…うん、もっと一緒に…いたいよ、」
无は言葉がわからなくて、花礫くんはすごくせっかちで。どうしてあんな言葉を言ったのかはわからないけど、その一言でものすごくすれ違ってる。
「凛護…!」
『ツクモちゃん、』
「…无君どうしたの?どこか痛むの?」
『身体は多分大丈夫…ツクモちゃん、じっちゃんと平門に連絡して』
「わかった、」
いつの間にか落ち着いた花礫くんはじっちゃんと一緒に病室に戻ってきた。やっぱり少し機嫌は悪かったけど、无と一緒に部屋に帰って行った。
「何があったの?」
『花礫くんの勘違い…だと思う』
「…そう、」
ツクモちゃんは心配そうに俯いた。
翌朝、羊に起こされて、みんなと一緒に朝食を食べた。平門から、无と花礫くんを検案塔で診察、與儀と一緒に俺も行くことになった。平門とツクモちゃんは「Z」に呼ばれてるから来れないみたいだけど。
『與儀、』
「ん?どうしたの?凛護ちゃん」
『无が動物って、何?』
「ああ…それ、ね…」
じっちゃんが昨日調べたデータ的に、无は「ニジ」っていう音に敏感な動物の細胞と同じものを持っているらしい。見た目は人間だけど、細胞的には動物。
『……』
「だ、だいじょうぶ?」
『…でも、』
「ん?」
『无は无、だよな…』
そう言うと與儀はふわりと笑った。與儀のこの表情、好きだな。
「うん、そうだね!」
それから、无、花礫くん、與儀、じっちゃんと一緒に検案塔へ向かった。
无と花礫くんの診察はちょっと長かったけど無事に終わって、話は「ニジの森」に行くかどうかになっていた。
その頃、俺は燭さんのところにいた。
『…燭、さん』
「凛護か…眼はどうだ?」
『大丈夫、良すぎることも、悪すぎることもない』
「耳は?目が見えていることで、聞こえが悪くなっていることはないか?」
『ない、大丈夫』
「そうか」
いつもは笑わない燭さんが、ちょっとだけ微笑ったような気がした。
『明日、燭さんも来るんだよな?』
「ああ…なんだ、邪魔か?」
『ううん、珍しいなって』
「あそこはかなり特異な場所だからな。今まで調査ができていないところだ」
涼しい顔で準備を進めていた燭さんだったけど、そろそろ邪魔かなって思って、俺は立ち上がった。
「…寝るのか?」
『うん、おやすみなさい、燭さん』
「…おやすみ」
俺は與儀とじっちゃんのいる部屋へと戻った。
ニジ
(ニジの森って、どんなところなんだろう)
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