土屋連載

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此処だけは自分とは生涯かけて無縁な場所であると土屋は信じて疑った事が無かった。
しかし、その絶対の自信はたった今覆せされそうとしているのだ。あろうことか土屋淳、彼自身の手によって。


土屋はゴクリと生唾を飲み込んだ。そして、リアルに聞こえたその音がこんなにも厭らしい音だと云うことを彼は初めて知った。


(…此処だけは死んでも来んと思とったのに)


手のひらに這わせた扉側面のひんやりしたのを最後に確認し、土屋は無音のままその扉を開いた。




(………なんっじゃいこのしけた空気!!)




口には出さず土屋は頭と腹の中で激しく彼等に突っ込みをお見舞いした。まず、何よりも土屋が気に入らないのは開けた向こうにあった世界に一切の音が無かった事。
とかくそこは静まり返っていた。ただ空調を管理する機械の不細工な音だけが在り他には何も無いのだ(…本間何やねんこいつら)


次に気に入らないのは此処には彼の好む女の子たるものが只の一人も居ないと云う事であった。そう広くない室内を何度か首を左右させ目で追ったが紛れもない事実、此処には女が居ない。居座る者は全て片っ端に男であった。
舌打ちに駄々をこねる気分でも土屋はなかった。こんな所に居るのは一秒たりとも御免だ、土屋はお目当ての彼を探す為ふらりと足を踏み出した。



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