□雪月夢
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まるで簡単なもののように思っていた
純粋なそれは単純で
強く、逞しいものなのだと
勝手にそう思い込んでいた
───雪月夢
久々に上忍仲間と酌み交わした酒は、思っていたよりも酔いの回りが早かった。
ようやくその責務に就く上忍師の祝いにと注がれた酒によって、普段あまり上機嫌にならない俺は珍しく饒舌になっていた。
そして、酒も入れば任務の堅苦しい話しから色恋の話へと移っていくもので・・・、
「女関係に関してカカシは百戦錬磨だもんなぁ」
「まぁね」
「うわぁ〜憎たらしいねぇこの色男」
「別に色男じゃないよ、女(むこう)から来るだけだし」
「余計に憎たらしいっ」
別に間違った事を言われているわけではないから否定もしないし、わざわざ仲間内に謙遜する義理もない。
更には酒まで入って機嫌もいい。
「俺だって男だからね。そういう時に来られたら断る理由もないでしょ」
なんて。
普段は決して言わないリップサービスまでして久々の宴会を楽しんでいた。
「よっ、男前!ってことは男も案外いけんじゃねえの?」
「そうだなー、カカシならいけるかもな」
終いには誰が言い出したのかこんな事まで出る始末で。
「はあ?男は興味なーいよ」
最初は全くその会話に興味すらなかったはずなのに・・・、
「あぁそうだ、お前の受け持つ班にあのうずまきナルトがいたよな?」
「あ?・・・いるけど」
突然出たうずまきナルトの名に俺のアンテナが動いた。
「うずまきか〜、あいつは単純だからすぐ引っかかるんじゃねぇ?」
「そんな訳ねぇだろっ、カカシと年の差幾つあると思ってんだ?一回り以上年下のただのガキだぜ」
「あ〜、そうか」
うずまきナルトは上忍の間でも特別有名な子供だった。
【あのうずまきナルト】と呼ばれるくらいに有名で、悪戯好きで、里一番の厄介者だ。
そいつが今回は俺の班にいるわけで・・・。
うずまきナルトだけならまだしも、あのうちは一族の生き残り、うちはサスケまでもが同じ班となった。
故に上忍連中の間ではちょっとした話題になっているわけだが・・・・・・。
「さすがにうずまきみたいなガキは落とせないよなぁ、さすがのカカシさんでも・・・」
──ピクッ
酒の力というものは恐ろしいもので、
「チョロイ、チョロイ。このはたけカカシ様の手に掛かれば落ちない子なんていなーいの」
この時の俺は、酒に酔って気持ちが大きくなりすぎて・・・、
「おっ、言うねぇ。男に二言はねえよな、カカシ」
「あぁ。その代わりうずまきを落としたら俺に来たAランク任務、代わってもらうからな」
「よし、賭け成立!!」
とんでもない賭けをしてしまったと気付いたのは酒が抜けた翌日の朝のことだった。
***
「・・・・・・」
(なんであんな変な賭けをやっちまったんだ・・・?)
俺は上忍待機所でなにをするでもなくぼんやりと天井を見上げ、
「・・・うずまきナルトか」
やたらとテンションの高いオレンジ色の小さな塊を思い出していた。
眩しいほどの金色の髪と青い眼は父親譲り。
あの威勢の良さはどうやら母譲りらしい。
全く忍ぶ様子のないオレンジ色の忍服は、あいつらしいといえばあいつらしい。
同じ年頃の子供と比べて身体の発達が遅れているように見えるのは家族のない子供にはありがちだ。
きっと3食まともに喰ってなどいないのだろう。
「・・・・・・に、してもだ・・・」
あんな小さな12歳の子供相手に恋愛をけしかけられるのだろうか。
見たところのあの突っ走る性格と、修行ばかりしているような青いガキが恋の『こ』の字も知らないような気がしてならない。
(・・・勝算は少ないかな)
やれやれと足を組み直し、昼寝でも決め込もうかと眼を閉じたその時、
「よう、カカシ」
昨日の酒飲みメンバーが楽しそうな顔を浮かべて待機所へと入ってきた。
「・・・よ」
チラリと右目だけで挨拶をして再び眼を閉じようとしたのだが、その仲のひとりが俺の隣にドカリと腰を下ろしてきて、俺は目を開けた。
「昨日の賭けは勿論覚えてるよな、カカシ」
「・・・あぁ、ちゃーんと覚えてますよ」
「男に二言はねえな?ま、精々ゲーム感覚で楽しんでこいよ」
「・・・フン、お前らにはスーパーウルトラAランクの長期任務でも押し付けてやるから覚悟しとけよ」
「おー怖いっ、ギャハハ、楽しみに待ってるぜ」
「・・・・・・」
朝からとんだ笑い者だ。
せっかく昼寝を決め込もうと思ったのにここでは寝られそうもない。
俺は小さく溜息をつくと立ち上がり、「じゃ」と手を上げていつもの演習場の木の上を目指した。
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2012.09.20