□風花
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いつも温もりをくれたのはナルトだったのに…。

生きているリアルを感じさせてくれたのは誰でもないナルトだったのに…。

俺はナルトを通してミナト先生を見ていた。

それをいつからだろう、

ナルトに全てを見透かされているような気がして怖くなって、俺はナルトに別れを告げた。


「ナルト、俺たちもう終わりにしよう…」


ナルトは泣くだろうか?

大声を上げて嫌だと怒るのだろうか?

それとも燃える様に怒りを露わに俺のことを殴るのだろうか…?

いや、いっそのことそうして欲しいのかもしれない。

そうして責めて、怒って、泣いて…。

感情の全てを怒りに変えて俺にぶつけて欲しかったのだ。


それなのに…、


「カカシ先生が俺なんか見てないことは知ってた…。俺は知ってて、苦しんでるカカシ先生の手を放さなかったんだ。ごめんな先生、俺もう来ないから……」


ナルトは怒りもせず泣きもせず、責めもせず、謝りながらペコリと頭を下げて俺に背中を向けた。


「……」


(ナルト…)

名前を呼んでしまいそうだった。

呼び止めてどうする?

呼び止めたところでこの俺にはもうどうする事もできないというのに…。

部屋を出る直前、ナルトが小さく声を上げ顔を半分だけ此方に向けた。


「鍵…、此処に置いとくから…」

「ナルト、じゃ…」

「俺の部屋の鍵は、捨ててくれ…」


ナルトの部屋の鍵を取り出すためにポケットに突っ込んだ手が所在をなくして動きを止める。


「じゃ…」


ナルトは静かに部屋を出て行った。

部屋に充満するのは重苦しいほどの沈黙と、最低な大人へと成り下がった俺の心だった。



【sideナルト】



俺、物心がついた時からずっと嫌われてた。

ずっとずっと、独りぼっちだった。

裏切られる事なんてしょっちゅうで、だから今回も「またか…」なんて笑って終わり。

ずっと知ってた。

カカシ先生が俺なんかを見てないって。

でもそれでもいいと思ってた。

だから、その手を放せなかった。

ごめんなカカシ先生…、俺がバカだったんだ。


あの日…

久しぶりに夜中目が覚めてしまって俺はカカシ先生の寝顔を見てた。

じっと見てたら瞼がかすかに動いて、その唇が


『ん…せんせ……』


【先生】と紡いだ。


『……!!』


俺は息を呑んで、すぐ枕元にある写真立てに目線を投げかけた。

カカシ先生が【先生】と呼ぶのは…

俺とよく似た色を持つ

(四代目…火影……)

俺とよく似た色を持っているはずなのにこの人は木葉の英雄で…、俺はこの人によって腹の中に九尾を封印された忌まわしい狐憑き…。

憎しみの対象だ。

そして、カカシ先生にとって俺は、この人の代わりだった…。

自分の部屋に入り、鍵を閉め、俺はその場にズルズルとへたり込んだ。


「…っ」


嘘でも何でもよかった。

傍に居て、笑う顔を見るのが好きだった。


『ナルト…』


俺の名を熱く呼んで、恍惚を浮かべた顔を見ると幸せだった。

それも今日で終わり…。

今日一晩泣いて、明日からは普段どおりに振舞うから…。


「…ぅっ…ふ…ぇっ」


俺の元から、また大切なものが消えていった。

もう消えるものは何もない。

だってもう、空っぽなんだ。






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2011.05.10
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