SS置き場

□花束を抱えて
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もう3年ぶりくらいになるだろうか。
以前同じ場所で同じように鉢合わせをした日から、そのくらいは経った。


変わったのは、お互いにもうアムジャケットなど着ていないこと、殺気を向けていないこと。

もうそこに彼のエッジも何も残されていないし、弔われる本人もシティのモニュメントに移されて既にここにはいない。
それでも彼らが集まるのは、何の飾りも立派なモニュメントもない、平地に素人のスキルで拵えたこの土の山の前だ。


「ロシェット……!」

「……ロシェ、出直すなら」

「ジェナス――K・K、大丈夫。もう僕は何もしないよ、できるワケもない」


「……オレは、お前を許したわけじゃない」


「分かってる。笑いあえるなんて思ってないし、そんなこと許されない。
ちゃんと分かってるんだ。ね、シーン」


あの頃この場所の前に立ったことがある人間なら、皆その名をこの場所で語りかける。




「何しに来たんだよ」


「前と同じ。今日は……今日はまだ、お花は持ってきていないけど、
今度はちゃんと手を合わせに来たんだよ。本当に」




時間が解決してくれる、とはよく言うものだけれど、
それはなかったことになるのではなく、忘却されるのでもなく、
ただ少しだけ痛みが鈍くなって許容できるようになることなんだろう。

許したワケでも、相手自体を許容したワケでもない。
しかし拳を振り上げなければと思うジェナスの感情に反して、その動作は鈍い。

それだけは許されないと、きっと被害者も加害者も誰しもそう思うのに、その痛みの鈍化に抗うのは忘れることより難しいのだ。


長い長い沈黙が流れる。
それが10秒なのか、5分なのか、その場の誰にも分からない。


それを破ったのはロシェットで、「ありがとう」と呟きながらしゃがみ、その土に触れた。
撫でると、柔らかくて薄い砂嵐ができて、土の匂いが通り過ぎていった。ひどく懐かしい。

それは確か、ロシェットにとってはアムドライバーになったばかりの頃の記憶に少しだけ残るモノ。





「ねえシーン……あの頃のままなら良かったのにね。

ううん、やっぱりそれも違う。
気付けば良かった、分かろうとすれば良かったんでしょ?
シーンが僕らと別れて歩き始めた気持ち。

もう取り返しがつかないくらい遅いけど、でも僕は生きていくよ。
受け入れたり、受け入れられたり、好きなものに気付いたり、自分で歩いてみたいって思ったりしながら――

多分、次はようやくちゃんとここにお花、置ける気がするんだ。

受け取ってくれる?」





その後、先にその場から歩き始めた後ろ姿は2人分だ。

自分の横には肩を並べる男がいる。
それをチラと視界に入れて、ロシェットは空を仰ぐ。


「ねえK・K」

「ん?」

「ずっと誰にも見てもらえないのはイライラしてたし、いつか1人にされるのなんてゴメンだ……って僕が思ったのが全部の原因だったら、
今のこの時間って、もしかしてものすごい皮肉なんじゃない?」

「……そう、かもな。
 ――けど……」

「何?」

「オレは、お前に全て手放せなんて言わない。『お前が穏やかに過ごすなんて許されない』なんて誰が言ったって、
オレだけはもうお前の手を離したりしないさ。
 だって、ロシェがあそこまで思い詰めるまで『1人なんだ』なんて思わせた、俺のせいでもありそうだし」


「……バッカじゃないの。そんなこと……誰がどう見たって僕が悪いのに。
まあ別に、いいけど」


「いいだろ?だから、次は俺もシーンに言いに行く。
ロシェの隣に……この場所にずっと立ってるのが俺の償いだって。
 ――お前と同じ、次は俺もあそこに置ける気がするから」


「ん。また来ようK・K。次はちゃんと、それでいいよね?って、あの時とは違うからって、ちゃんとお花持ってさ」

「まあ、だけどシーンのことだから、そんな報告しに行って花束なんか持ってっても
お前ら今更……って呆れて笑いそうだよな?むしろ花も突っ返されて、お前たちが持ってろって」

「何それ!あはは――うん、そうかも。シーンっぽい」



春がやってくる直前の青い空に、白い飛行機雲がのびては、最初の方から薄くなっていく。

彼は、そんな風に生きるコトを許してくれるだろうか。
ようやく気付いた、自分が唯一持っていたモノにしがみついて生きるコトを笑ってくれるだろうか。

それを訊きにまたあの場所を訪れようと、ロシェットは1度振り返ってまた背を向けた。
繋いだ手を引かれるがまま。


――いつか、ごめんねを受け取ってくれる時でも、……あり得ないけど、僕が今の幸せを持っていてもイイって言ってくれる時でも、
シーンが抱えるようにお花を持ってくれるような日が、いつか来ないかな――

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