SS置き場

□未練がましい
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セラとシーン、その2人とパフユニットの行動が始まった長い1日が終わって、太陽はまた頭上にある。

ジェナス達とはまたしばらく別行動だが、それにしてもたった数時間で色々と変わるものだと、
肩でため息をしてパフはイスに座りこんだ。
吐く息と一緒に肩が下がるように、セラも、あの子の背負った肩の荷が減ってしまえばいいのにと思った。


「結局、ジャックの思い通りってことなのかな。
セラのコト、知っててジョイと連絡とってたワケ?」


横の、トレーラの運転席に座る彼に一応は訊くものの、しれっとすましたその横顔は、どう見ても確信犯だ。



「どっちかというと逆だな。普段からやりとりはしてるもんだから、小耳に挟んでついお節介を……ってところだ」

「はいはい。――まあ、感謝はしてるよ。サンキュ。
アタシはまた後悔するトコだったもの。
これでジョナサンとの約束も、ちゃんと守れた気がする。

あの子は思ってたよりずっと強くて……ホント、アタシなんか要らなかったかもしれないけど」


余計な世話だと分かって手を回すあたり、悔しいけれどよく見ている。

このローディの目には自分がどんな光景で見えているのかと、パフは急に気恥ずかしくなって最後は言い訳がましくなり、
反対側の窓の外へぷいと顔を向けた。



しかし、予想に反して返事も相槌もない。

肩越しに見てみれば、ジャックは遠くを見る目で穏やかに笑っていた。
その目はよく知っている。
自分がジョナサンとの時間を思い出す時と同じ。



「何よジャック。
言いたいことがあるなら言ったらどう。
そりゃ……アタシだって、未だに色々引きずって我ながら情けないって思ってるよ。でもね」


「いや、そうじゃない――」



ふわっと、不意にパフの頭に降った感触。
あたたかい、拳ダコとは違う武骨さがあるメカニックの手だ。


ジャックの


パフがそう気付いた瞬間にはもう、その手で何度か撫でられた後。


「アンタがその顔に戻って何よりだ。
ここんとこ……いや、ミュネーゼを出た後からだ、らしくない時はらしくなかったからな。
迷ってるというか、どう進むか考えあぐねてる。そういう顔をしてた。

アンタはその未練も含めて、昔っからイイ女だよ」


「な……!

――――……もう、このアタシをそんな風に子供扱いできるのは、ジャックだけだよ!」


「そいつは光栄だな」


ホントは



「……ソレ、アンタが思ってるヤツじゃないけどさ……」


「ん?」

「なんでもない。
ジュリとジュネを呼んでくる。もう出発でしょ」



妹のような双子たちを迎えに外に出てみたら、降り注ぐ陽はバカみたいに眩しい。


こういう日には、高確率で、こんな風に眩しかったパートナーを思い出す。


(まあジョナサンはホント、良い想い出だもの―――だけどアタシは忘れられないんじゃない。
ジャックが考えてるのとはもう違うんだよ)


『彼を想っていた自分』を捨てられないだけ。
未練があるとしたらきっとそれだ。


もう夏でもないのに、前に進めるだろうと笑い飛ばしてくるような陽射し。
不思議なもので、どんなに落ち込んでいてもそういう日に外に出れば多少なりと笑顔になれた。
今日もそれに例外なんてない。


(まったく。それにしてもジャックのあの言い方。
そうやって踏みとどまってるのがアタシのキャラだとでも思ってるんだったら、大間違いだからね)


それでもその言葉を思い出すと頬が緩むのはどうしようもなかった。



ただヤケになっていた時期から、
気が付いたら安心できる場所ができていて、
気が付いたら



「――こういうヤツでも、未練がましいって言うのかしらね」


けれど

その変化を本人の前で認めるのは、きっとバトルより難しいのだ

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