SS置き場

□負けず嫌い
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一緒に旅を始めた頃から、ジェナスがシーンに突っかかったり、必要以上にムキになることは滅多にない。


それでもやはり勝負ごとになれば別だ。
ジェナスがいくら睨んでも、テーブルの上の自分のカードは変わらない。



「これで俺の10連勝……と。
なあ、そろそろ諦めたらどうだ?ジェナ」


「あーもーお前強すぎだろ!……いやでも、1回くらい勝てたっていいのに……。
次だ。勝ち逃げなんかさせないからな」


「そんなつもりはねえよ。
だけどさ、人って向いてないってことだって1つか2つあるだろ。だってお前――」


「どうしたの?」


「マリーさん。あ、すみません騒いで……別に」


「どうしたもこうしたも、これでさ」



カードを指して肩を竦めるシーンを、ジェナスが悔しさを滲ませながら睨む。
この余裕だ。前に進むしか考えてこなかった自分にはどうしたって無い、この。


「これってなんだよ」



「トランプ?ああ、移動中の暇つぶしにって置いておいたやつね。
ジェナとシーン2人で?」


「そうなんだけど、ジェナが全然なんだ、コレ見ろよ」


「へえ、ブラックジャックかあ」


「そ。で、こいつの10連敗。お前は顔に出るし、これは運もあるんだから諦めろって言ってるんだが、聞かなくてさ」


「だからオレは……!
っ……分かった、ちょっと頭、冷やしてくる。だけど後でもう1回だからな、シーン!」





ジェナスが表に出して突っかかることはなくなったけれど、シーンの余裕が面白くない時はたまにある。

それは以前とは全く違う気持ちだった。
手段なんてカードだってなんだっていい。




――別に勝ちたいってワケじゃなくて
そう、どうしたらシーンを

……

オレがこんな風になるみたいに、悩ませてやれるかって!
知られたら絶対にまた悔しいくらい完璧な顔で笑って、オレはきっと反論できなくなるから、絶対言ってやらないけど。







「あーあ、行っちまった。あの調子なら、『ポーカーフェイス教えろ!』ってニルギースのとこにでも駆け込みかねないな。
ったく、ほんと負けず嫌いだよ、ジェナは」


「くすくす……そうね、ジェナも、ねえ」


含んだ言い回しで、マリーはテーブルの上のカードをペラペラと捲る。



「!なんだ?」


「別に、気にしないで。
――ただ、カウンティングの練習をするのも大概負けず嫌いよね、って思っただけだから」


にっこり笑う彼女のさりげない言葉が、シーンの顔に動揺を走らせた。


「がっ……!……ちょ、……ちょっと待て!マリー!?」


「どうしたの、シーン。私、誰のことなんて言ってないわよ?

……でも、アナタ達2人とも、変わらないわね。
リトルウイングに居た頃もこうだった。
ジェナに言ったら怒られそうだけど、ジェナがシーンのこと追いかけてて、でも――」


「ああ……あの頃か。
――今思うと、あの頃は俺の方がジェナより負けず嫌いだったかもな」


「あら、素直」


余計なお世話だ。
そう思いつつも、ジェナの後ろ姿を見守った後では、
意外なほどストンとマリーの言葉がシーンの胸に落ちてきたのも確かだ。



「ったく、茶化すなよ。けど本当によく見てるよな、マリーも。どこまで何を知られてんだか」


「それがお仕事だもの。
まあ、1回くらい真正面から勝負してもいいと思うわよ、ソレ」


「ああ、分かってる」



カードを指差すマリーの言葉は、
ゲームのことか、それとも――



片付け終わったケースを眺めるシーンの目に映っているのは、嬉しさをにじませる色と、
自分の感情の大半を占める存在が次はいつ挑んで来るか、という想像だ。



(何も変わってないわけじゃない。
それで……ジェナが負けられないって思ってる理由が俺と同じなら、こっちだって負けられねえな)

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