SS置き場

□頬に伝う雫
1ページ/1ページ

(なんで、なんでボクじゃダメなの!?)


いつものようにバトルから戻ったロシェットへ一瞥もくれずにキャシーが出て行った後、
床に叩きつけられて割れた花瓶の音がそれを叫ぶ。

「くそっ……!」

「なあロシェ、もう荒れるなって。もう少しだったろ?」

「何言ってるんだよ!?これじゃ全然何も変わって……
――もういい、K・K、行くよ!」

「了ー解」


軽く肩を竦めて、その2歩後ろを歩く。
前を早足で歩くロシェットの肩に伸ばしかけたK・Kの手は、今日もまた届かない。


「ロシェ」


渡すことができたのは声だけ。


「なに」


「……次はうまくいくさ。シーンと決着、着けようぜ」


この眼が何か言いたげに覗き込んでくると、こんな欺瞞がK・Kの口をついて出る。

目の前を通り過ぎていく命に、もうずっと足は竦んだままなのに。


(……何の、何の決着だ?
オレはもうそんなこと覚えてない。
どうして、オレ達はシーンと戦ってるんだ?ロシェ……)


――与えられたポジションを守るしかできない、オレの悪いクセ。
そんなこと分かってるさ。



「当たり前でしょ!?
ジェナスも、シーンも、このままにするもんか――!」



キッと前を見据えるロシェットの横顔を、ただ黙って後ろから追う。



誰かコイツを抱きしめてやってくれ。

『お前が必要なんだ』って、そう言って。


キャシーでも、シーンでも良かったのに。
それでもきっとオレじゃダメなんだろ?

オレじゃ、ロシェの頬を伝って流れ続けてる雫を止めてやることなんてできないから。


誰か。

コイツが大切なことを全部忘れる前に。




「さっさとアイツらの居場所、見つけに行くよ!」

「はいはい、分かってる。明日こそキャシーのお小言はカンベンしてほしいからな」




こうやってただ後ろを歩くだけのオレは

きっともう、この目や頬を濡らすことも許してもらえない。




オレの罪は、多分――

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ