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※この文章は霧雨さんに書いて頂いた、薔薇という文の続きです。





【Color】




「蒼色は醜いものなのだろうか?」
「それ、 あーちゃんの話?」


 不思議そうに首を傾げる紫陽花に、ちがうと私は首を振った。
 出された茶菓子を咥えながら、あの藤とか言う男との話を思い出す。


「バラの花の話だよ。青い色のバラさ」
「青臭いローズ君の話ぃー」
「その発想はなかったよ」


 真面目に聞いてくれというと、幼女に聞いてもわかんないと返事が返ってきた。
 しかし、一応取り合ってくれるのか、紫陽花はパソコンを弄り始めた。


「あーちゃん、青い色のバラ見たことないよ?」
「一応品種改良されたのはあるけどね。もっとも完全な青ではなくほとんど紫だけれども」
「んー? あ。なんかちゃんと青いのもあるよ?」
「あぁ。それは品種改良ではなくて染めてあるんだよ」


 紫陽花が指差した鮮やかな蒼色のバラの画像を見て私は言う。
 白いバラに青い染料で染めたもの。深く鮮やかな蒼い色。これが人がイメージする青いバラというものだろう。
 こうして見ると人間は随分青色に執着しているように思える。


「おーかっくいー。なんかこの色あれだね。宇宙船●ヤマトに出てくる敵キャラみたい」
「どうしてそうほいほいと、嫌な例えを思いつくんだい?」


 しかもあれは顔面真っ青だったぞ。比喩でもなんでもなく見たまま。
 紫陽花は首だけ此方に向けて「で?」と聞いた。


「誰が青いローズくんを醜いって言ったの?」
「いや、私ではなく花の方を」
「醜いんじゃないよ。ちょっと宇宙人っぽいんだよ」
「ヤマトの話はもういいから」


 だからあれは完全に宇宙人だ。


「いや、ただ人工的は駄目かなと思ってね」
「人工的?」
「人間に染められた色は美しくないのかとね」
「あ。だからローズくん気にしてるんだ」


 あははと紫陽花は笑った。
 同じように笑って返そうかと思ったけれど、私はただ苦笑いをすることしか出来なかった。


「ローズくん比べられるの苦手だもんね。『バラなんかより他の花がいい』って」
「……まぁ、今回は全く違うのだけどね」
「印象が似てるんでしょ? しまうまー」
「……とらうま?」
「じゃーあ、『蒼は綺麗なのにバラの蒼は醜い』って感じのことかな?」
「察しが良すぎやしないかい?」
「ローズくんがわかりやすいんだよー」


 いえあ、とよくわからない掛け声で椅子の上に立つと、紫陽花は私と同じ目線になった。


「ローズくんは青くないからね。なんていわれた?」
「……綺麗な紅でよかったと言われたよ」
「あ、じゃあ褒められてるんだよ」


 大丈夫と頭を撫でられる。
 子供に慰められるなんてと思いながら、紫陽花に聞いてみる。


「紫陽花。染められた色は駄目かい?」
「んー。『移り気』」
「は?」
「『心変わり』」
「なんだい?」
「あーちゃんの花言葉だよ」


 にへらっと両手を挙げる紫陽花。


「あーちゃんは簡単に改良できるから色んな形や花の色があるよ」
「そう、なのかい?」
「というか土で色変わっちゃうって言われるもん」


 本当のところは秘密だけどね、と彼女は言った。


「恋する女はき・れ・い・さ〜♪」
「何をいきなり歌いだしているんだい?」
「赤でも青でも、結局はバラの花だよ。ローズくんはローズ君。人間さんたちに色変えされても、きっと全部いっしょだよ」


 そう言って微笑む彼女に、私は心の底から安堵した。


「ありがとう、紫陽花」
「うん」

 そうだ、そのとおりだ。
 何も悩む必要なんてない。

「私の美しさが色程度で変わるはずないということは、やはり揺るがない事実という事だね」
「え、悩んでたのそこだったの?」
「私としたことが焦ってしまった……もっとよく現実をみるべきだったよ」
「見てね? 現実はお願いだから見てね?」
「全くあの藤とかいう男。適当な事を言って」
「あ、あーちゃんてっきり、相手の名前をわざとぼかしたいのかと思ってたのに……」
「そういえばよくわからない事を言っていたね。『綺麗過ぎるものほど壊したい。鮮やか過ぎるものを消してしまいたい』とか?」
「ローズくんそれ危ない。違うフラグたってるよ」
「折角だから服とウィッグを青に新調してみようか? ふふふ、あまりの美しさに驚く彼の顔が目に浮かぶよ」
「だめー!! 消されちゃう!ローズくん本当に消されちゃうよ!」
「ふっ、そんなに褒めないでくれないか? 私だって照れる事はあるさ」
「話を聞こうよぉ……」


 がっくりと音が鳴りそうなほど落ち込む紫陽花。
 ……いや、冗談だけれども。からかい過ぎたかな? 
 さすがに子供相手に相談した罪悪感があったからね。
 ふんと腕を組んで少し考えてみる。
 今度あの男に会ったら何かふざけた事でもしてみるかな?
 案外さっき言った服とウイッグの新調はいい線かもしれない。消されたくはないけれども。
 やはりわからない事は人に聞くべきかなとまだ項垂れている彼女に「紫陽花」と最後に質問を投げかける。


「私は彼にどう対応するべきだろうね?」
「笑えばいいと思うよ」


 投げやりにも聞こえるその台詞。
 けれど、彼女が言うとどんな言葉より理に適っているように思えた。












薔薇的には人を不愉快にさせてないか不安なときがあります。あるだけでわりかしすぐ立ち直ります。

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