企画いら
□泉
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「こーうすけーぇ」
「何」
「ゲームしよー」
「嫌だ」
「…」
そう言って夕菜は俺から背を向け、チッと舌打ちをする。おい。聞こえてんだけど。こんな丸聞こえの舌打ちあるか。フツー相手に聞こえないようにするモンだろが。
「…孝介ぇー」
「んだよ」
「ドラクe「するかあ!」
「チッ」
まーただ。だから聞こえてるっつうの。
「夕菜。俺いちおー野球部なの。大会控えてんの。遊んでなんかいらんねー訳。」
「…はあ」
そっぽ向いてしまった俺の姉、夕菜は
最近激しいくらいに俺を誘惑してくる。
あ、イヤ誘惑っつうか…勧誘だなありゃ。
兄はあまり家にいねーから俺がターゲットになる事が多い。そして誘われ、断って、…そんなカンジだ。そうやって終わる。
んでも、なんか最近引きが早いような。ふーんと言ってあっさり諦めるような。あ、別に気にしてる訳じゃないけども。
つうか、いつもアイツは時間帯を考えない。確か大学一年目で… 登校時間とかは知らねえけど、俺より確実に遅い。それでなのかいつも誘い時は朝。
朝っぱらからゲームってのは、ツライ。ましてやドラ●エやモン●ンなんて、神経使うモンばっかじゃねえか。せめて夜…、イヤ土日の夜、そこら辺。そこら辺に誘ってもらえると… ってナニ考えてんだ俺。
チュン チュン
「行ってきまーす」
「…いってらっしゃい」
しゅんと落ち込む夕菜をよそに、俺は歩いて行ってしまう。いつもの事。だった。
ここ最近、夕菜の勧誘回数が少ない。前は週に5,6回。それが今では3回あれば多い方。
アイツの元気もなくなっている気がする。これは、大学入ってから。もしかして、俺がゲームやんないせいか?通信して対戦すれば、夕菜は元気を取り戻すのだろうか?
まさか。んな単純な女じゃない。………多分。
そんな事を考えながら、今日も俺は学校へ行く。
キーンコーン カーンコーン
聞きなれたチャイム音。今夕菜は、どうしているのだろうか。
さすがにもう大学着いてるよな。10時だし。
行ってねえってワケないし…
あ、まさか…いじめられてんのか?!
元気がねえのは!やたらとゲームするのは!!
そう思ったら、なんだか今までの行動が悔やみきれなかった。
自分がもっと姉に耳を向けていれば… 自分がもっと 姉にかまっていれば… !
"ガタン"
授業の終わりを告げるチャイムがまた鳴る。泉孝介の席には、イスがぐらぐらとよろめく姿だけあった。
(ハッ ハッ)
息がきれる。今まさに学校を飛び出している俺。
途中で浜田にすれ違った。後ろから声が聞こえたがそんなの気にしてる余裕はなかった。
今家に帰れば、夕菜は居るかもしれない。
また端末片手に引き籠っているのかもしれない。
そしたら、俺は
なんて声をかければいいのだろう
なんて声をーーー……
ガチャッ
「ぶぁっ!たっただいま!ねっ…ねえちゃッ……」
シーン
「……」
俺の荒い息の音しか聞こえない。
夕菜は、そこにはいなかった。