ForestDrop文庫

□過去への奏鳴曲(紅の流星番外編)
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 3, Reminiscences of the young time.
 小学1年の10月に、友樹は住み慣れた熱海から東京の住宅街へと引っ越してきた。
親の都合とはいえ急に遠い町まで連れて来られ、知らない道を通って慣れない同級生たちの中へ入って一緒に勉強をするのは苦痛でしょうがなかった。
何より、熱海の町で小さい頃からずっと仲良しだった友達と会えなくなってしまったのが何よりも辛かった。
転校先の小学校に通い始めてから1週間も経たないうちに学校へ行かなくなってしまった。母や兄が行くように促すものの、何もかもが嫌でしょうがなかった。
「熱海へ帰りたいよ…。」
その日も、2階の窓から見える山の向こうを見つめながら何度も呟いていた。ふと家の前の道に目をやると2人の女の子がこちらを見上げていた。確か、一人は隣の家に住んでいたはずだ。もう一人は…その友達だという事しか分からなかった。
呼び鈴のベルが鳴って外へ出てみると、玄関に立っていたのはその2人…綾香と友里奈だった。
「何の用事だよ…。」
2人は返事をする代わりに友樹の手を引っ張って連れ出したのだ。
「何処へ連れて行く気だよ?」
「ちょっと近くの公園まで行こう。外に出ないと体に毒だよ?」
「うるさいなぁ。放っといてくれよ。」
言われるがままに公園まで来た。その公園は山の上にあり、町が一望できた。時間は既に夕方だったために、既に公園では誰も遊んではいなかった。
「ブランコでも乗ろう。」
「いいよ、別にさ…仲良くも無いのに。」
綾香に促されて、3人はブランコへ乗った。友樹が真ん中、2人は両隣に乗った。
「どうして、学校へ来ないの?」
「どうしてって…。急に転校させられて、知らない同級生と授業受けるのが嫌なんだよ。」
「そうだったの…。」
「2人が僕をこの公園まで連れてきた理由も分からなくは無いよ。でも、なぜ手を無理やり引いてまで公園まで連れてきたのかもわからないよ。」
すると、今まで口を挟まなかった友里奈が話し出した。
「私たちもあなたと同じで遠い町から親の都合でこの町に引っ越してきたの。だから、全てとは言えないけど、あなたの気持ちもよく分かるよ。」
「…そうなのか?」
聞くと、綾香は神奈川県真鶴町から、友里奈は北海道札幌市から小学校入学前に引っ越してきたのだという。
入学当初からこの町に住み、小学校へ通っている面では友樹よりは気が楽だったかもしれないが、最初は学校に行くことも嫌だったという。
「私と友里奈ちゃんも最初は学校へ行くのが嫌で仕方なかったけど、最初は無理して行った。そのうちに友里奈ちゃんと仲良くなれたから学校へ行けるようになったかな。」
綾香がそこまで言いかけたとき、友樹は反論してしまった。
「別に、僕には関係ないよ。2人の仲良し話聞いても学校へは行けやしない。」
「…私たちは友樹君と仲良くなりたい、ただそれだけなの。それだけは信じて。」
「信じられないな。突然他所から来た僕に仲良くしたいと言ってくれるのがさ…。」
それでも翌日から、友樹は学校へと行き始めた。勉強が今まで追いつけなかったところも2人はノートを写させてくれたり、分からなかったところもいろいろと教えてくれた。
思えば、2人に出会えなかったら学校に通うことすら外へ出ることも嫌になり、引きこもりになっていただろうことを考えると、2人には感謝しきれない気持ちでいっぱいだった。
しかし、3年前の高校時代に綾香が、そして2日前には友里奈までもが友樹の前から姿を消してしまった。
「2人ともうそつきじゃないか…結局は俺をひとりぼっちにして…。」
その時、急に空が曇りだし雨が降ってきた。友樹は屋根の下に逃げるでもなく、ただ煙を吐き続ける煙突をただ見つめていた。
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