ForestDrop文庫

□過去への奏鳴曲(紅の流星番外編)
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2, Wedding ceremony that faded away in a dream.(夢に消えた結婚式)
『友里奈が死んでしまった。』
 友樹はその事実を受け止めることが出来ないまま、霊安室に安置された彼女の遺体が寝かされているベッドの傍に置かれた椅子に座っていた。既に涙も枯れ果ててしまっていた。
 友樹は霊安室を出ると、入口の傍に置かれた椅子に座っていた友里奈の両親に頭を下げると病院から出て、会社の事務所へと向かった。その道中もずっと雨が降り続いており、涙のせいでもないのに視線が曇っていた。会社へ着くと事務所へと歩いていった。既に支店長と水谷が出勤しており、何らかの打ち合わせをしていた。
「水谷先輩、昨日は大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
「いいんだ。困ったときにはお互い様だしな。それで、彼女さんはどうなった??」
それを聞かれて絶句してしまった。そして、震える声を堪えながらもその答えを返した。
「彼女は…昨日の夜遅くに亡くなってしまいました。最期を看取れたことがせめてもの救いとしかいえません…。」
「そうか…。とにかく残念だったとしか言えないが、水無月も辛かっただろう。」
「今でも、その事実を受け止められません。」
「今日は配達するのも無理だろう。配達は俺らがやるから、しばらくは休みな。」
「すみません…。」
水谷に車のカギを返して駐車してある場所を言うと、支店長にしばらく休むことを伝えた。
「水無月、気を確かにな。彼女さんは絶対に後を追うことは望んではいないはずだからな。」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけすると思いますがお願いします…。」
 自分の荷物を持って事務所を後にして家へと帰ると、近くのお風呂屋へ行って体を休めた。
 その後、衣装屋へと行って頼んであった白いウェディングドレスを手に入れると、友里奈の家へと向かった。彼女にウェディングドレスを着させてあげたいという願いは受け入れられ、葬儀会社の人の手伝いも借りて、ウェディングドレスを着せた。すでに3週間後には結婚することにしていた矢先のことで、出来上がったウェディングドレスを着るのを楽しみにしていた彼女に、せめてもの贈り物として着させてあげたいと友樹は思っていたのだ。
「本当に、生きている時に着させてあげたかったな…。」
 棺の中に入れられた彼女はウェディングドレスをまとっている。しかし、もう一緒に人生を歩むことは出来ないということを、改めて実感させられてしまった。
一度、自宅へ戻ってきた友里奈の遺体は、棺の中へ納められた後に、病院から乗せられてきた時と同じ車へと乗せられて、街の葬儀会場まで移された。 
 通夜の式典の最中も、仏壇に飾られている友里奈の遺影を見つめていた。いつ撮られた写真なのかは知らないが、満面の笑みを浮かべた友里奈がそこにはいた。
 葬儀会場から一旦は家へと戻ってきた友樹は、幻になってしまった結婚式の夢を見た。ウェディングドレスに身を包んだ友里奈が父親に手を引かれる形でバージンロードを歩いてくる。教会の窓から光が降り注ぎ、ドレスなどを白く輝かせている。
 しかし、目を覚ませばその情景は一瞬にして消え去り、友里奈のいなくなった現実というものが待ち受けていた。
(このまま、時間が止まってしまえばいいのに…。)
 不意に手にとった携帯電話に表示されているモニターが、時間が一刻と過ぎていくことを継げている。
(どうして…。)
 受け止めなければならない現実は、友樹の胸を一層きつく締めつけていた。
 翌日の葬儀には中学や高校時代の友達らが参列した。寺の和尚が経を読む声が響き渡る中、友樹は昨日と同じように、水野家の親戚の人たちに混じって仏壇の前に並べられた椅子の列に座っていた。参列した人たちは、あまりにも早過ぎる友里奈の死を心から悼み、すすり泣く声が何処からも聞こえてきた。
 ほとんどの参列者は葬儀会場で見送ったが、友樹は斎場までの同行を許されて、葬儀会社が用意した親族送迎用のバスに乗った。通路からフロントガラス越しに前を行く霊柩車の姿が見える。3年前に綾香の葬儀に参列した際にも特別に同行を許され、乗ったバスでは隣の席に友里奈が座っていた。互いに目を合わせて話すことも出来なかったが、それでも互いに片手を握り合っていた。葬儀が終わった後はずっと、心中不安定になってしまっていたが、そこから立ち直る事が出来たのは友里奈がいたからだった。
 しかし、今度は友里奈が斎場で火葬されてしまう。自分が後を追うのは後何年先になるのだろう、これから何回、2人の年齢を超さなければならないのかと考えると、辛い気持ちは増した。
そして、時間が止まってほしいと幾度も願った。だが、確実に霊柩車とバスは斎場へと近づいている。その車窓から見える景色からは鮮やかな色は消えてモノクロ写真のようにも見えた。
 斎場に到着後、最後の対面の後に友里奈の棺は荼毘へと付されていった。遺体が火葬されている間、親族の待合室に通されて飲食物が参列者に振舞われた。しかし、友樹は手をつけることさえも出来なかった。中にいられなくなって斎場の外へ出ると、高くそびえた斎場の煙突が見えた。その煙突から出てくる白い煙はきっと友里奈なのだろうと友樹は思った。
天に向かって昇っていく煙を目で追ったが途中で見えなくなってしまった。その煙が昇っていくのを見守る中で心に残った友里奈との思い出を探した。
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