ForestDrop文庫

□時の鏡2『伝説の戦士』
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2,謎多きハト
「どこ行ってたのよ」
「ごめん。何か、遠くの方まで逃げていたみたいで」
 鷹斗が真琴に追いついたのは、公園から15分くらい… 鷹斗の家のすぐ近くだ。
「大変だったんだから」
「えっ??」
「あの黒い服の人間たちに追いかけられて、捕まるかと思った」
「…大変だったね。でも、よく捕まらずに済んだな」
 真琴を助けたのは、戦士「ブルースターライト」に変身した鷹斗だったが、それを言うわけにはいかない。あくまで、別のところに逃げていたことを装った。
「助けられたのよ。青い髪をして、セーラー服のような服を着た女の子に」
「…セーラー服みたいな服…」
「その人も、誰かと戦っているみたいだったけど、そっちを放って、先に私を助けてくれた。剣を振り回す様は、本当にかっこよかった」
「…それはそうとさ、真琴が抱きかかえている、その鳩はどうしたの??」
「私を助けてくれた、青髪の女の子が抱きかかえていたの。あの人だって、あの黒い服の人たちと戦うので忙しいのに、この鳩の手当てなんて出来ないでしょ? だから、私が手当てを引き受けたの」
「そうなんだ…」
 真琴に抱きかかえられた鳩の様子を見てみると、自分の目の前に飛び込んできた時よりも、だいぶ弱っているような気がした。
「…とりあえず、うちで手当てしよう。その鳩、だいぶ弱っているみたいだから」
 家の中へ入ると、鷹斗は救急箱と、お湯で濡らしたタオルを用意した。真琴がタオルで鳩の体をきれいに拭き、傷ついていたところを消毒して、包帯を巻いた。
「出血とかはひどくないし、しばらく休めてあげれば、大丈夫じゃないかな」
 鷹斗が救急箱と一緒に持ってきていた別のタオルと洗面器で簡易的なベッドを作ると、真琴はそこに鳩を寝かせた。
「…木とかにぶつかって出来た傷にしては、なんか変なのよね」
「えっ?」
「何か、刃物が掠めたかのような傷なのよ」
「刃物で掠めた傷??」
「普通に、自然の中で出来た傷じゃないみたいよ。たぶん、あの黒い人たちに関係あるんじゃないかしら」
「…可能性は、無くはないね」
 公園で、ランディールとかいう敵と戦っていたときに、その鳥は鷹斗のところに向かって飛び込んできた。
 そして、意識を失いながらも、何かを伝えようとしていた。
「まさかさ、あの青髪の女の子の仕業じゃないでしょうね?」
「…ブルースターライトがそんな事をしたら、たまたまそこにきた真琴に、その鳥の手当ては頼まないよ」
「えっ??」
 あっ…。鷹斗は誤って、戦士の名前を言ってしまった。
「何…。その、ブルースターライトって…」
「えっとね…。緑色っぽい別の女の子と、その青髪の女の子が戦っているのを一瞬見たんだ。そしたら、なんかその名前を聞いたような気がして…」
「…何か、怪しいけど…」
 鷹斗は冷や冷やしながらも、何とかごまかした。
 簡易ベッドに寝かされている鳩を眺めていると、その首にはペンダントらしきものが提げられていることに気づいた。
「…ペンダントに気づいた??」
「分からなかったわ。きっと、毛の中にでも隠していたのでしょうね」
 そのペンダントは、何かが変だった。その形はまるで半月みたいなのだが、ところどころに割れたような痕跡があった。
「…割れてるみたいね」
「割れているという事は、元々はちゃんとした円形のもので、何らかの原因で半分に割れてしまった。そう考えるのが普通か」
「そうでしょうね。それにしても、あの黒い人たちはなぜ、この鳩を追っていたのか…」
 目の前の簡易ベッドで眠る、傷だらけの小さな鳩。
 あの敵兵たちはなぜ、この小さな鳩を狙っていたのか。2人は首をかしげながら、今は鳩が回復するのをただ見守っていた。 
 
『何? ブルースターライト??』
「はい。倉橋 鷹斗という少年が、その戦士に変身していました。変身前に剣を交えたのと比べて、格段に戦闘力は上がっています」
 ディルブラックのアジトでは、ランディールがテレビらしきもので、何者かと話していた。
『…それで、レイナは見つけたのか?』
「それが、一旦は捕まえる寸前まで行ったのですが、倉橋 鷹斗と言う少年が現れた後、どこに行ったのか分からなくなってしまいまして…」
『何をやっているんだ。その倉橋 鷹斗とかいう少年と戦う前に、レイナを捕まえるのが先だ!』
「申し訳ありません…」
『とにかく、その少年を片付けなければならないのか。そのためのアイテムを、今からそちらへと送る』
 しばらくすると、そのテレビらしきものの中から、怪しい箱が出てきた。
『その箱の中にあるのは、こちらで開発したDB-TCSカードだ。普通の人間或いは兵士にこのカードを付けることで、より強い力を発揮させることが出来るうえに、投げた本人が指示して動かすことが出来る』
「なるほど…」
『何より、レイナを捕まえることを優先させるんだ。邪魔者を片付ける事も必要だが、必要じゃない場合はやるな』
「分かりました」
 
 翌日になると、鷹斗たちが助けて介抱した鳩は元気になっていた。
「よかった…」
 ベッドから起き上がると、部屋中を元気に飛び回っている。
「そんなにはしゃぐと、また傷が開いちゃうよ?」
 飛び回るのに飽きたのだろうか、鳩は鷹斗の手の中に下りてきた。
「…この家の中に、君だけ置いていくのも心細いな…」
 何でこの鳩が、ディルブラックの兵士たちに追われていたのだろうか。
 理由がどうであれ、今もこの鳩を捕まえるために兵士たちが探し回り、捕まえる機会を狙っているのだろう。
「さて、どうしたものかな…」
 鷹斗はそう言いつつも、自分が学校へ行く準備をし始めた。しかしながら、動物を学校に持ち込むのは出来ないし、だからといって家に置いていくわけにもいかない。
「特に登下校時が問題だな…」
 もし、この鳩がぬいぐるみのフリが出来れば、何とかなるんだけど… 鷹斗はそう考えつつ、果物をミキサーで細かくしたものを鳩に食べさせた。鳥には何を食べさせればいいのか分からないし、とりあえずは果物を細かくして食べさせてみたら、それを食べてくれたからだ。多分、これで問題ないんだろうけど…。
「…さすがに君は、人形のフリなんか出来ないよね」
 すると、準備をし終えてチャックを閉めたかばんの上に、鳩はちょこんと乗っかった。どうやら言葉が分かるらしく、じっとしている。
「お前、随分頭がいいな。でも、そこに君がいたら俺がかばんを持ち歩けないよ」
 すると今度は、鷹斗の肩の上に移った。
「…随分、お利口な鳩だな」
 そう言いながら鳩の体を撫でてやると、その手に顔を寄せてくる。随分人懐っこい鳩だなと思いながらも、鷹斗は一旦、鳩を机の上に下ろした。
 食器の片づけをしてから、急いで身支度を整えると、かばんを手に持った後で鳩をもう一度肩の上へと乗せた。
 家を出て駅へ向かって歩いていくと、途中で真琴と合流した。
「この鳩って、昨日の??」
「そうだよ。あのまま家に置いてくるのもどうかと思ったから、とりあえず連れてきた。自然にぬいぐるみのフリしてくれたし」
「でも、男の子がぬいぐるみを連れているというのはおかしくない?」
「…そうかもしれない。でも、家に置いてきぼりにして、とんでもないことになるよりはいいし」
 真琴もそれ以上は聞かなかった。きっと、鷹斗はそれなりに考えがあってのことだろうと思ったからだ。
 歩いている最中は勿論、電車に乗っている最中も、鳩は決して動かずに鷹斗の肩から落ちないようにしていた。
 
「今日も一日、終わったね」
 学校を後に歩き出した鷹斗と真琴であったが、その途中で何か不審な動きをしている人影が目に付いた。
「…探りでも入れているのかな?」
『…いいえ。あれは、私を探しているのです』
「マコちゃん、何かしゃべった?」
「えっ?」
「…気のせいかな」
 その時、人影のほうがこちらに気づいたらしく、四方八方へ何らかの合図を送っている。
「…何だ??」
『ブルースターライトの気配にでも、気づいたのでしょうか…』
「誰の声だよ、いったい…」
「もしかしてさ、その鳩がテレパシーを使っているんじゃない??」
『その通りです。あなた方2人にだけ分かるようにテレパシーを送りました。今の姿でしゃべったら、不自然極まりないですから…』
「そうなんだ…」
 その直後、周りをうろついていた不審な人影が何人か集まり、鷹斗たちをめがけて襲い掛かってきた。
『ディルブラックの連中です。私と術を使える能力者を探して、この地球に来たのでしょう』
「でも、どうすればいいの??」
「しょうがない。マコちゃんは、この鳩を連れて逃げて! この連中は俺が何とかするから」
「…分かった」
 真琴が鳩を連れて逃げると、鷹斗はブルースターライトへと変身し、襲い掛かってくる人影たちに向かっていった。
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