ForestDrop文庫

□怪盗ブルーイーグル
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『思い出の鏡』
 教会の中へ入ると、一人のシスターと小さい女の子が何か話しているのが聞こえた。
「…あの小さい女の子、何か悩みがあるのかな」
 扉の近くのイスに座り、その会話をしばらくの間、聞いていた。
『親戚の人に持っていかれちゃったの??』
『幼稚園に行っている間に…。あの鏡は、おばあちゃんからもらった、大切な鏡だったのに…』
『誰から聞いて、分かったの??』
『幼稚園に迎えに来てくれた、ママから聞いたの。何か価値があるものだからと言っていたみたいだけど、勝手に持って行ったんだって』
『そうなの…』
『おばあちゃんも、昔から大切にしていた鏡だったのに…』
『大丈夫。神様は、ちゃんと取り返してくれるわ』
 そのうちに、小さい女の子は帰っていった。
「隆人君、いつからここに?」
「少し前からです。今さっきの女の子の話は、少しは聞いていました」
「そうなら、話は早いですね。怪盗ブルーイーグルに、お願いがあります」
 懺悔室と呼ばれる、小さな部屋に通されると、シスターからさっきの話を聞いた。
「その鏡は、さっきの女の子が、おばあさんから貰ったものだそうです。しかし、それを押しかけてきた親戚の人たちが持って行ったのだそうです。どれくらい、価値があるのかまでは分かりませんけど…」
「…分かりました。それで、その鏡の特徴は?」
「鏡の特徴は、全体が水色で、鏡の裏と持ち手にピンク色のリボンを模したデザインがされているみたいです」
「…その辺で市販されている鏡ではなさそうですね」
「私も、そのあたりは知らないので、よくわかりませんけど…」
「ちゃんと、その鏡はブルーイーグルが取り戻します」
 
 その日の夜、女の子の家から鏡を持ち出した親戚の家に、ブルーイーグルの姿はあった。家の屋根から2階のベランダへと降り、柱の陰からそっと、部屋の様子を見ていた。
『昔のお姫様が使っていた鏡… そう書けば、高く売れるぞ』
『…でも、鑑定書とかは??』
『そんなもの、関係ない』
 家の中をのぞいてみると、パソコンの前で何かをしている2人の後ろ姿を見つけた。そして、その同じ部屋の、大きなテーブルの上には、1つの鏡が置いてあった。
(あの鏡かな…?)
『でも、おばさんがあの子にあげたこの鏡に、そんな価値があるのか?』
『おばさんが気づいていないだけで、その辺の鏡とは違う価値があるというのを、ネットで知ったんだよ』
『…見かけは、普通の鏡なんだけどな』
(…絶対に、取り返さないと)
 パソコンの前から2人の人間がいなくなり、部屋は静かになるのと同時に、明かりが消えた。
「さてと、取り返しに…」
 ベランダから中へ入るガラス戸を開けて中へ入ると、リビングにおいてある鏡を手に取った。
(たしか、その鏡は全体が水色、ピンクのリボンを模したデザインがある…)
 うっすらと月明かりがでていたため、それで鏡の色を確認した。全体は水色で、持ち手などに施されているリボンのデザインもピンク色だ。
「よし、これだね…」
 その時、足早に部屋に近づいてくる音が聞こえてきた。
「さっさと出よう…」
 鏡が置いてあった場所に、『鏡は返してもらいました。 BlueEagle.』と書いた一枚のカードをおき、部屋を後にした。

 ブルーイーグルはその鏡を返すために、シスターの所に相談に来ていた小さい女の子の家まで行った。ガラス窓を開けて中へ入り、女の子が寝ているベッドの横にある、テーブルの上へと鏡を置いた。
 ふと、そのテーブルの上に飾ってあった写真立てに目がいった。その写真たてには、ベッドで眠っている女の子と、そのおばあさんらしき人物が並んで写っており、女の子の手には、鏡が握られている。
「本当に、大事にしている鏡なんだね…」
 その時、ドアの向こうから、この女の子の両親のものと思われる声が聞こえてきた。
『あの鏡が?』
『ええ。お義母様が、あの子にくれた、あの鏡よ』
『…まったく、あいつらの神経はまったく分からない。死んだ母さんが、美織にくれたものじゃないか。たとえ、それに価値があっても、手出しをしないのが普通というものなのに』
(この女の子、美織ちゃんて言うんだ…。でも、そのおばあさんは、もうこの世にいないなんて…)
『でも、まだ美織には言わないつもりなの?』
『…言わなきゃいけないとは思っているさ。何たって、母さんが美織を一番可愛がってくれたし…』
(…本当に、思い出の鏡だったんだ)
「…お兄さん、誰??」
 その声がした方を見ると、ベッドから女の子『美織』がこっちを見ていた。
「…鏡、取り戻してきたよ」
「えっ?」
 ブルーイーグルは、さっき自分がテーブルの上に置いた鏡を手にとって、美織に渡した。
「ありがとう。白い泥棒さん」
「…ずっと、大切にね」
 ブルーイーグルはそっと立ち上がると、さっき入ってきたガラス戸から外へ出ると、そのまま姿を消した。

『白き怪盗、また出現』
 翌日、その表題の記事が、朝の新聞へ大々的に載った。
「この前は、堂々と絵画盗んだと思ったら、今度はこそこそと鏡かよ」
「その辺のコソドロと、全然変わりないじゃん」
 新聞をただチラ見しただけで、1人の男子生徒はそう言った。
「その鏡はさ、今の持ち主である小さな女の子が、そのおばあさんから貰ったものらしいんだ。その鏡を親戚の人に盗られて、それを怪盗が取り戻したらしいぞ??」 
「…随分と、フレンドリーな泥棒だな」
「しかも、今の持ち主である女の子、怪盗の顔を見たらしいぞ?」
「えっ? 本当かよ??」
「…暗くてよく見えなかったけど、すごく優しそうなお兄さんだったってさ」
「おかしな世の中だな。この世の中には、盗むことによって喜ばれる泥棒がいるなんて…」
 友達から話を聞きながら、隆二は思った。
(不思議な泥棒だ。怪盗ブルーイーグル…)
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