ForestDrop文庫

□時の鏡〜ゲームの世界からやってきた少女〜
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3,変わった姉弟
 鷹斗はランディアによって記憶が操られて、彼女と偽りの姉弟となったが、本当のことを知っているのは当人2人と、ランディアが生み出されたゲーム会社の関係者の一部くらいだろう。両親や妹はランディアのことを、鷹斗の双子の姉・愛だと思っており、学校に通う同級生らは親戚の子だと思っているはずである。
 翌日、ランディアが着ることの出来る服とかを揃えるのに2人で出かけた。早めに買い物を済ませて帰って来たが、問題となることが浮かんだ。
「それにしても、土日とかは休みだからいいけど…。月曜日から金曜日とかはどうするかな。僕は学校だし…」
「学校?」
「そう。記憶とかで建前上は双子の姉弟とはなっているけど、普通に家にいるのも、多分おかしいと思うんだ」
「…そう言われればそうね。でも、この世界の教科書とか持ってないけど、どうしよう」
「そのゲーム会社の人に一応説明して、ある程度手続きしてもらったらどう?」
 ランディアは普段携帯している電話で、どこかに電話をかけた。事情を説明しているところから見ると、恐らくゲーム会社にでも話をしているのだろう。
「転校扱いにしてもらって、編入試験とかも除外してもらいました。とりあえず、学校へ行けば教科書とかは何とかしてくれるそうです」
「まるで、裏口入学みたいですね」
「…そこは、言わない方向でお願いします」
 その後、敵と戦うのに必要となる術を簡単に教えてもらった。しかし、その術を使うには、必ず青い結晶がついたペンダントを持ち歩く必要があった。
「でも、その技を使っても戦えないことはあるから、鷹斗君の持っている道具に力を吹き込んで、武器にする必要はあるかな。例えば…」
「武器といえるもの… エアガンでいいかな」
「それで十分大丈夫よ。とりあえず、魔法で武器に作り直すから」
 彼女を待たせると、鷹斗は自分の部屋へと入り、普段は使用しない引き出しの中にしまいこんでいたエアガンの箱を取り出した。いったい、何のために買ったのかまでは思い出せないが、記憶を辿ると近くの模型屋で安かったから衝動的に買ってしまった事を思い出した。一度だけ中身を出したが、使ったことは一度も無い。
「これで、いいかな」
「十分よ。術さえ使えれば、どの武器にでも形を変えて使えるし、むしろ、銃の方が簡単に持ち運べるから」
「でも、このおもちゃの銃を、どうやって武器に作り直すんだ??」
「今から、このエアガンに力を吹き込むよ。でも、これによって、あなたを危険な目に合わせてしまう事になるけど…」
 鷹斗は、自分のエアガンをランディアの前へと置いた。そして、彼女がどこからともなく自分が武器として使っている剣を取り出すと、鷹斗の黒いエアガンの上へそっとかざした。よく見ると、彼女の剣の持ち手の部分には、火か何かの紋章が刻み込まれ、中心に赤い結晶がはめられているのが一目で分かった。
「来たれ、風の使者リリアン・フローよ。そなたの力をこの武器の中に。術者の名は鷹斗。この少年に戦う勇気と力を与えよ…。 ディレイル!!」
 彼女が、何の術を唱えたかは理解できない。ただ、あの黒いエアガンが急に青く光りだし、鳥の紋章が刻み込まれていき、その中心に青い結晶が現れると、青い光が結晶の中へ吸い込まれていった。
「これで、武器として使えるから」
「ありがとう。でも、これは学校には持っていけないでしょうね」
「術を使えば、小さくして持ち歩くことも出来るから大丈夫よ」
 その時、ランディアの剣と鷹斗のエアガンについている結晶が急に点滅しだした。
「…敵が現れたみたいね」
「でも、何処に??」
「武器が教えてくれるから。とにかく行きましょう」
 武器が教えてくれるという意味が鷹斗には分からなかった。家を飛び出す前、ランディアは自分のポケットから携帯電話らしき機械を取り出し、その場所へ向かう最中もずっとモニターを目で追っていた。まだ武器が出来たばかりの状態で初参戦の現場となったのは昨日、彼女を助けた公園だった。
「今度こそは、お前の生命を貰う」
「誰がアンタなんかに、生命を奪われてたまるもんですか!」
 公園の真ん中に、黒い影が一つ立っていることに気づいた。
「フッ…。あんたの後ろにいる一般人を、せいぜい怪我させないようにな」
 その時、ランディアがその黒い影に向かって突進していき、戦闘に突入していった。彼女と敵方の黒い影が互いに格闘の技を繰り出して戦闘していく中、鷹斗は周りを警戒していた。とにかく周りにいる一般人に危害が加わることがあってはいけないと思ったのだ。
 その時に『ドン!!』という大きな音が響き、電柱にランディアが叩きつけられた。それに憎たらしい笑みを浮かべながら近づいていく敵を前にダメージを受けて防御姿勢が取れない彼女を何とか助けなければと、鷹斗は自らに言い聞かせた。
「そうだった…。俺はランディアさんと一緒に戦う仲間だった。こんなところで立ち尽くす理由なんてない!」
 その時には彼女の元へと全速力で走っていた。既に武器を元の大きさに戻しすぐに構える気で手にしていた。
「口ほどにも無い…」
「私としたことが、油断した…。こんな時に…」
「待て! 彼女の前に俺が相手してやる!!」
 止めを刺そうとしている敵の前へ立ちはだかると、術で作り直された武器を構えた。
「何を言うかと思えば…。君に私が倒せるわけが無い」
「それを言うのは… 俺の方だ!!」
 止めを刺すのに敵が手にしていた武器をエアガンで吹き飛ばすと、後ずさった敵にクロスチョップとかの攻撃を次々と打ち込んでいった。敵がそれを読み取って後ずさって攻撃を回避すると、鷹斗は次の手を止めて構えなおした。
「少しは倒しがいのある相手か」
「さっきまでは技の訓練だったが…。此処からは本気でいくぜ!」
 敵の攻撃も何回か受けたが、とりあえず敵へは相当のダメージを与えていった。
「ちっ…。私としたことが、敵を見下していたとは…」
「よし。これで止めを刺してやる…」
 鷹斗は武器を出さずに、敵の首に地獄突きをおみまいした。
「グワッ!!」
 敵がその場へ倒れこむと、口から妙な石を吐いた。そして、元の人間の姿へと戻っていった。
「…えっ??」
「私が今まで戦ってきた敵の中にも、敵に操られた人間は何人かいたわ」
 強打した肩を抑えながら、ランディアが近づいてきた。
「敵の中には、術で人間を操って偵察や攻撃に使う奴らがいるの。操られた人間とかを区別するには…」
「区別するには??」
「…腕か足に変な紋章が出ているかどうか。操られている人間には間違いなくあって、本当の敵軍だったら紋章は服の下に隠れているから」
 その時、目の前で倒れていた人が意識を取り戻した。鷹斗が起こすと、辺りをきょろきょろしながら首をかしげていた。
「…何故、俺はここにいるんだ?? 俺は駅にいたはずなのに」
「また、何かあったらいけません。急いでお帰りになった方がいいでしょう」
「…何だかよくわからないけど、そうだな」
 そういうと、その人は頭を抱えながら公園を後にした。
「さっきの戦い方、見事でしたよ。まだ私は昨日のダメージでいつもの力が出せなかったんです。操り人間だからと軽く見ていたら、とんでもない誤算でした」
「でも、よかった。これで、俺が負けてたら…」
「…さっきの戦いを見て安心しました。私が見込んでいたより、鷹斗君は強くて頼もしいから」
 家へと戻る最中、彼女にそう褒められたのがとても嬉しかった。いつもの生活から一転した最初の日でも、少しだけ自分に自身が持てるようになった。
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