光ヶ丘鉄道の一日(小説版)

□光ヶ丘鉄道の一日(後編)
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1,光ヶ丘鉄道C56復活への道(前編)
 あおぞら銀河鉄道総合車両センターでは、光ヶ丘鉄道C56の修理作業が続けられていた。蒸気機関車自体の修理作業は、今回が初めてというわけではない。この総合車両センターの作業員の手により、今までに何機も蒸気機関車を修理して動態復活させ、不定期ながらも観光列車として走らせている。C56形蒸気機関車の修理こそ初めてではあるが、既にほぼ同じ構造のC12形で経験のある作業員にとっては、その修理は難しくはないはずだった。
「おい、なんだこれ」
「流石に、この状態は酷くないか!?」
 作業員の声は飛び交っている。この機関車が運び込まれたときに行った検査では発見できなかった、隠れた問題が次々と起こっていたのである。
「この部品、ストック品あったっけ?」
「ここの部品はあるはずだ。今持ってくる」
「この装置は正常か?」 
「この前検査したら、正常だったぞ」
 壊れていないとされた箇所を改めて確認したり、壊れていると判断された箇所に至っては、ストック部品があれば交換していった。もし無い場合は、責任者に報告の上で、代替部品を準備する手はずだった。概ね、それらの部品は確保できていたため、修理は順調に進んでいるかのように思われたが…。
「この台枠、なんかおかしいぞ!?」
 床下機器を確認する場所で、機関車の車輪などを検査していた作業員が、ある部分を見て立ち止まっていた。
「台枠がどうした??」
「歪んでいるように見えるんですが」
 確認するために責任者が来ると、作業員は当該箇所を指した。
「…そのようにも見えるな。それに、動輪にも軸焼けのような症状が確認できる」
 この事は、すぐさま車両センター長を通し、車両管理室長である美住Pにも伝えられた。

「まさか台枠がねぇ…」
「ボイラーの次…いや、一番重要な箇所が…」
 蒸気機関車にとって、一番重要な部品となるのはボイラーだろうが、そのボイラーだけでなく動輪などを支え、牽引力を伝達するなど、最も重要な部分となる台枠が歪んでいる…発見した作業員に説明を受けて、それを自身で確認した美住Pは頭を抱え込んだ。
「ボイラーが壊れてなかったから、安心しきっていたわ…」  
「そうですね…。私らも、ボイラーの点検をやって、それが問題ないという結果出て…。この台枠を見逃してました」
「動輪に軸焼け…こうなっている地点で、まずは台枠を確かめなければ行けなかったわ…」
 蒸気機関車にとって、台枠が何よりの生命線…この部分がまともで、ボイラーの調子が悪くなっていて、他の機関車からボイラーの提供を受けて復活した…という事例は聞いたことがあった。
 逆に台枠の状態が悪い場合、それが原因で動態運転を終了し、静態保存…部品提供車にされたという話も聞いたことがある。台枠を新たに製作して復活した機関車もあるようだが、極めて稀な事例であるかもしれない。
「どうしましょうか…」
「新たに作ってもらえる可能性はない。だとしたら…」
「…どこかから、ドナーを探すしかないと?」
「これからを考えたら、部品確保も必要になる。まだ蒸気機関車には静態保存車も多いから、何とかなるとは思うんだけど…」
 新たに新製できないなら、どこかから代わりを持ってくるしかない。しかし、そう言った静態保存車両には、今でもボランティアで整備などをしている人たちがいる。彼らが汗を流し、膨大な手間と時間を費やして、今まで維持してきただろうと考えると、なかなか譲って欲しいとは言えない。
「下手に交渉したら、反発食らうかもしれないから…。とにかく、まずはそれらの静態保存機を見てみましょうか…」
 美住Pは水面下で行動を起こしていくことにした。自身が休みの日とかに、各地で静態保存されている同型車両を見て、そして整備に携わっている人たちの話を聞いて回ろうとしていた。

「いい状態に保っているんですね」
「月に一度は仲間で集まって、補修とかをしているからね」
 ある公園に保存されている機関車…C56-127は、有志による『保存会』が結成されていて、月に1度くらい集まって整備しているようだ。その整備内容はファイルにまとめられ、機関車と共に置かれている。その保存会の会長と偶然接触できた美住Pは、そのファイルを見せてもらいながら説明を受けている。
「あなた方が整備している理由とは??」
「ただこの場所で余生を送っている機関車を、我々で綺麗な状態を維持しているだけ。錆びたりして目も当てられない惨状にはしたくない。理由と言えばそれだけだな」
「そうですよね」
「機関車として役目を終えた時には、ボイラーとかも壊れていた。鉄道会社は解体するつもりだったらしいが、我々で保存したいと願い出て、今はこの場所で保存されている。だから、保存するからにはそれを維持する責任もある」
 そう力説する保存会代表の方に、美住Pはただ頷いた。
「ごもっともな考えと思います。その明確な答えは、この機関車が語ってくれているようですしね」
「特に蒸気機関車は生き物だからな…」
 しばらく話した後、美住PはC56-127保存会代表の方と別れ、別の保存車両がある場所へ向かうことにした。
(やっぱり、下手に譲ってほしいとは言えないな…)
 あの保存車両がきれいな裏には、保存会の絶え間ない努力があると、美住Pは改めて知った。だからこそ、余計に"譲ってほしい"と言えなかった。
 
「本当にどうしようか…」
 あおぞら銀河鉄道本社に戻ってきた美住Pは、今まで見てきた保存車両の状態の良さと、それを維持管理している人たちと話したことを、文面にまとめていた。
(あの人たちは、保存車両に対して、維持管理をする責任を負い、そしてそれ以上に気持ちを注いでいる。その人たちの熱い気持ちを考えたら…)
 保存されている機関車のほとんどは、見た目の状態が良かった。現在修理している光ヶ丘鉄道のC56と比べたら、間違いなくその差は明らかだった。
(…仮に、あの保存車両が、台枠とボイラーとか、全てが完璧なら…間違いなくそっちを整備した方が早そうに見えてしまう)
 光ヶ丘鉄道のC56形、見れば見るほど満身創痍ぶりが明らかになっている。静態保存車両が雨ざらしで長く放置されて、惨めな姿を晒すのとはまた違う…見方を変えればそれより惨めな様相だ。
(少なくとも、そんな機関車を見て、大切に使っているとは誰も考えないよね…)
「どうだったんですか? 静態保存機関車を見て来て…」
 絵美Pが隣席に座ると、今日の事を聞いてきた。
「…保存に携わっている方々の思いは踏みにじれない」
「そうですよね」
「…あの時、修理を承諾した自分に後悔するわ」
 入場した光ヶ丘鉄道C56を見てすぐ、碌に整備されていないことに気づいていた。きららPが転職後、出来る限りの整備をしたのだろうが、それでも1人で出来る事は限られている。必要最低限のメンテナンスも満足にできていない…その機関車を目の当たりにして、美住Pも困ったのだ。
「本当に、使い倒しという言葉そのままというか…」
「光ヶ丘鉄道自体が零細企業みたいですからねぇ…」
「多分、修理代金も払ってくれ無さそうだから、修理する気も起きないのよね…」
「それは…。それでも修理しない理由にはなりませんよ」
「分かってはいるんだけど…」
 美住Pは思い悩む。光ヶ丘鉄道にいる可愛い後輩・きららPの手前、修理を渋るのも気は引けるが、修理をしても整備や点検を怠り、同じことを繰り返す…その未来しか見えない。
「私情は挟めませんよ??」
「なぜ、そんな鉄道のために、部品提供車を探さないといけないのか…」
「…美住Pさん、まさか酔ってませんよね?」
 美住Pは酔っているわけではないが、その部品…台枠を確保するためとはいえ、静態保存車の保有者や管理者などに交渉を持ち掛け、納得してもらえる結果を引き出すにはどうすればいいか…。それを考えただけでも頭が痛くなる。
「はぁ…。本当にどうすればいいのか」
 解決策が見いだせない中、美住Pは眠れぬ夜を過ごした。
 
 1週間後、絵美Pは慌てて美住Pのいる車両管理室長室に駆け込んだ。
「美住Pさん、これ…」
「えっと、なになに??」
 絵美Pが美住Pに差し出したのは、1枚のFAXだった。
『我々の知り合いで、同じようにC56形の静態保存車を維持管理している、ボランティア団体から報告がありました。その車両を事実上保有している自治体が解体撤去を検討しているようです。自治体が説明をする機会を設けるそうなので、顔を出してみてはいかがでしょうか』
 それは数日前に美住Pが訪問した、静態保存車の保存会の代表からだった。別のC56静態保存車を事実上保有している自治体が、解体撤去を検討しているという話で、それに関連した説明会を開催するらしく、行ってみたらどうかという話であった。
「こういう話を流してくれるとは、有難いわ…」
 このFAXを送ってくれたC56-127保存会代表は、恐らく予想していたのかもしれない。ただ話を聞きに来たわけではなく、譲ってもらえそうな機関車を探しているのではないかと。
「あおぞら銀河鉄道が、蒸気機関車を動態保存し、観光列車として運行している事を知ってれば、本来の目的も分かるんでしょうけどね」
「それでも、せっかくの機会だから…。まずは説明会前に、その車両を見ておくのと、保存会の方の話を聞きたいわね」
 美住Pは電話機を手に取った。
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