光ヶ丘鉄道の一日(小説版)

□光ヶ丘鉄道の一日(小説版)前編
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3,光ヶ丘鉄道の大ピンチ。C56故障(前編)
 ひばりヶ丘鉄道からC12とともに、桃園Pが新たな乗務員として移ってきて、まだ日が経たない頃…ある危機の予兆があった。
(何だろう…)
 白雪PはC56を点検中、何か違和感を感じていた。
(でも、どうしても運休できないし…)
 この時、白雪Pは運用の方を優先し、その違和感を見逃したことにしていた。そのままC56の点検を終えると、乗務して仕業に向かった。
 
「うっ…」
「どうしたの!?」
 旅客運用の道半ば、走行中のC56が不調を訴え始めた。走行音も確かにいつもとは違い、異様な音がしている。運転している白雪Pらも気づいてはいたが、C56自体も走り続けていたし、お客さんを困らせるわけにはいかないと、気づかないふりをしていた。
(ぐはっ…)
 突如として大きな異音が響いた。慌てて白雪Pはブレーキをかけ、列車を停車させた。
(故障してしまった…)
 白雪Pはすぐさま連絡を入れ、列車の一時運転見合わせと、救援を求めた。
 やがて対向側からC12が到着すると、運転していたきららPが降り、すぐさまC56の状態を確認すると、連結作業に移った。
(…前々から、嫌な予感がしてたのよ。このC56形)
「えっと…。きららPさん?」
「まずは車両の移動が不可欠です。C12ではC56と客車を一緒に牽引は出来ないので、まずは機関車を待避線のある駅まで運び、それから客車を移動させます」
 白雪Pらが聞くより前に、きららPは答えた。
「ここで直せない??」
「…無理ですね」
 現地で修理できないか聞いた白雪Pだったが、きららPはそれを否定した。
「まずは、線路を空ける事を考えます。現地で修理するのは、あくまで移動する際の応急措置です」
 淡々ときららPは話す。
「ですから、誘導指示出してください」
 やがて白雪Pは誘導指示を出し、きららPがC12とC56を連結させた。

(…この鉄道での修理は無理だわ) 
 C56が牽引していた客車はC12が代わりに牽引し、一応は運転再開した。しかし、三ノ輪機関区までの回送を待つまでの間、きららPはC56を隅々まで点検した。
 運用がひと段落し、白雪Pが乗ったC12が客車を切り離し、単独で来た時には、きららPは1つの結論に達していた。
「この鉄道での修理は無理みたいですね」 
 状態を聞いた白雪Pに、きららPは淡々と話した。
「部品を取り寄せても??」
「取り寄せるって…」
 きららPは察した。トンネルを挟んでつながっている、ひばりヶ丘鉄道には同型のC56形があるらしく、その部品を貰ってこれる…白雪Pはそう思っているに違いない。
「必要以上の要求は、そのひばりヶ丘鉄道さんに迷惑が掛かります…」
「いずれ廃止になる鉄道だから、廃止後に処分するよりはマシって譲ってくれるでしょう」
「それは軽率すぎじゃないですか?」 
「それ以外に、どう方法があると??」
 白雪Pの問いに、今度はきららPが答えられずに黙り込んだ。
「このC56は、予想以上に酷使が過ぎてます。この状態で走ってきたのが、ほぼ奇跡だったんです」
「…確かに、最低限の整備しかしないで、今まで使ってきたことは認めるわ」
「出来る事は1つしかありません。これを修理できる技術のある、工場まで運ぶことです」
「やっぱり、きららPさんでも、これの修理は出来なかったか…」
 白雪Pの諦め調子に、きららPは怒りを覚えたが、何とか堪えて言葉をかみ砕く。
「何事にも限度があります。この鉄道の整備場で出来る事って、日常的な点検と簡単な整備だけです。それだけでもしっかりやっていれば、ここまで重い故障にならずに済んだんじゃありませんか??」
 白雪Pは黙り込んだ。
「この鉄道には、ちゃんとした整備知識を持った人間がいないんですか」
「ええ…」
「この機関車は、ほとんど使い倒され、使えなくなる一歩手前の状態です。あなたたちはそう思っていなくても、この機関車の状態が全てを物語っています」
 きららPは淡々と話した。
「この鉄道で走り出す前の状態が、どうだったかは知りません。ですが、その時より不具合を抱えたまま、走らせ続けていたというのは確かでしょう」
 白雪Pに冷たく重い言葉を突きつけるきららPに、何者かが宥めるような声が聞こえてきた。
『どうか、そこまで白雪Pさんに、冷たく当たらんでくれないか』
「えっ…??」
『私はC56…。前身の貨物鉄道の時代より、ここに暮らす機関車じゃ…』
「それで、あなたは…」
『前身の貨物鉄道は、輸送量減少などの理由で廃止された。2両いた蒸気機関車のうち、1両はどこか別の場所に、私は機関区の奥で眠りに就いたんじゃよ』
 その声の主…C56は、きららPに思いの全てを話し続ける。
『もう一度走りたい…。その思いを抱き眠っていた私の所に、白雪Pさんの鶴の一声が聞こえた。彼女は光ヶ丘鉄道として、貨物鉄道を再開し、再び走れるようにしてくれたんだ…』
 それを聞いたきららPには、もはや何も言えなかった。
『白雪Pさんが機関車に疎い、素人に近い乗務員とは知っていた。それでも、彼女は出来る限りのことをしてくれたんだ。私は心から感謝している。だから…』
 きららPは、ただ黙ってC56に耳を傾ける。機関車から聞こえるのは、これまでの無理は承知の上だったこと。それでも走らせてくれた白雪Pを恩人と思っていることだった。
『このまま走れなくなって、どの道を歩むことになっても構わない。私は走れただけ、満足なんだ』
 走れなくなってもいい…機関車C56はそう言った。
 しかし、そんなの本望では無いはず…。
「…まだ修理できる見込みはあります」
 きららPはそう告げた。
「ひばりヶ丘鉄道さんから、応急措置で部品を頂ければ、被牽引回送出来ます。それであおぞら銀河鉄道に修理を依頼しましょう」
 白雪Pは必要な部品をきららPから聞くと、すぐさまひばりヶ丘鉄道へ問い合わせたようだ。
「とりあえず、C56を三ノ輪機関区まで回送しましょう」
 きららPは出来るだけの応急措置を施し、C12と再び連結させ、回送準備を整えた。

「とりあえず、C56を機関庫へは収容できたけど…」
 終列車後、C12で三ノ輪機関区にC56を収容した後、ある問題に直面した。
 現状、使用できる機関車はC12とトーマスの2台だけ。
「仕方ないわ。C12とトーマスで運用をするしかないわね」
 白雪Pは、当面の間は無理を承知で、2台の機関車で運用することを決めた。
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