ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)

□ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)後編
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Vol3,決断
―当面、鉄道線は運休します。―
 各駅には、このメッセージが書かれた張り紙が出され、無人駅は封鎖、踏切に関しても、線路側を閉じて警報機の使用を止めるなどの措置が施されていた。
 白雪Pと沿線自治体が協議して代替バスが走るようになったが、鉄道が再び走り出すことを願っている住民の声も聞こえている。
 それまでの多忙極まりない毎日であったゆうPと氷流Pらは、急に暇になったことに違和感を覚えつつ、普段は出来なかった検査を念入りに行うなど、いつでも営業再開できるように準備をしていた。
「この鉄道をどうするかは、あなた次第ね。」
 運行停止の翌日、ひばりヶ丘鉄道の乗務員控室にて、美住Pと白雪Pらが話し合いをしていた。
「えっ?どうするんです??」
「選択肢は3つ。」
 美住Pは2つの再建案と、このまま廃線にする案とを準備した。
「1つはひばりヶ丘鉄道のまま、あおぞら銀河鉄道が主体で再建。もう1つは、吸収合併して、あおぞら銀河鉄道の一路線として継続。3つ目は再建を断念して、廃線ね。」
 白雪Pは3つの選択肢を聞き、熟考していた。
「路線は継続したいです。でも、今の組織のままでは、再建できるか心配ですね…。」
「私たちとしては、ひばりヶ丘鉄道線を潰す気はないわ。今の組織のままで動かすにしても、車両や乗務員とかの応援とかはするから。」
 白雪Pと美住Pには、廃止するという選択肢はない。2人は再建するとして、どういった方法を取るかを考えているようだ。
「…それで、きららPさん、愛乃Pさんたちは、どう考えているの?」
 同席している2人にも意見を聞く。
「この路線が継続するなら、私は異論ありませんけど…。」
「私も同じくです。」
 ちょうど戻ってきた氷流PとゆうPにも意見を聞いた。
「…同じね。この鉄道にとって、最適な結果になるなら。」
「白雪Pさん…。今まで、あのダメな上層部と、私たちの間で、苦しんでいたのでしょう?私は、みんなと同じく、白雪Pさんの意に従います。」
「異論なしか…。」
 明確な意見としては言わなかったが、同じく再建する方向で考えているということだろう。
 白雪Pは、今のひばりヶ丘鉄道の状況を資料を見て知った。多くの負債などを抱えており、再建後に大きな足かせになることが予測された。それをどうやって片付けるかもまた、考えなければいけないだろう。
「それでは、美住Pさん…。」
「それで、社長の出す結論は?」
 今のひばりヶ丘鉄道の、一番上の責任者にいるのは白雪Pだ。美住Pは基本的に、自らの意見を通すのではなく、当事者の意見を尊重することにしているのだ。
「組織としてのひばりヶ丘鉄道は、再建を断念します。」
 今の組織のままでは再建はできないと判断したのだ。
「組織として?」
「今後は、あおぞら銀河鉄道の一路線として、この路線を継続運行できればと思います。」
 白雪Pの決断は重かった。今の組織のままでは、仮に保線を全て終えて、万全な状態にして運行を再開しても、乗務員の不足だけは解消することは難しいと考えていた。他社の力にすがるようだが、今の『ひばりヶ丘鉄道』という組織を廃止し、あおぞら銀河鉄道の一路線として、路線を再開できないかという結論に達したようだ。
 美住Pは納得したように、そのままきららPの方を向いた。
「そういうわけね、きららPさん。」
「えっ?」
 さっきの白雪Pの言葉を聞いて驚いたという顔をしたきららPであったが、内心では安堵していた。
「あなたは再入社よ。ひばりヶ丘路線の運転主任としてね。」
「また後輩に戻るわけですか。悪くないですね。」 
「今は遠回りしてこっちに来ているけど、直通運転できるように路線工事を進める予定よ。」
 美住Pは地図を開き、現在の連絡線を改良する工事を実施する事を話した。現在のルートが遠回りであることを踏まえ、より短い線路に出来ないかと模索しているようだ。
「連絡線の改良工事、そしてひばりヶ丘鉄道路線の保線工事…。線路面は、相当かかりそうですね。」
 白雪Pの考えとは裏腹に、美住Pは次々と物事を決めていった。
「保線と同時に、路線自体の近代化を進める。電車の配置も、転配出来れば楽だからね。」
「それをやったら…。」
「今までの良さも、残しながら進めるつもりよ。」
 なにより、ひばりヶ丘鉄道の良点は、恐らく良き田舎の風情の中を走っている事だろう。そういう良さを守りながら、よりよい路線にしていこうと、ここに集っていた皆は考えていたのだ。
「とりあえず、運行再開に向けて頑張りましょうね。」
 ひばりヶ丘鉄道は会社清算を実施し、あおぞら銀河鉄道に鉄道資産一切を譲渡することにしたのだ。
 その後は、あおぞら銀河鉄道の一路線として運行することを決め、運行改善計画の作成も開始した。
 路線面でも、保線工事を即急に実施し、再び電車をこの場所に走らせられるよう、準備を急ぐことにしたのだ。
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