ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)

□ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)後編
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Vol2,リセットの時
 やがて、ひばりヶ丘鉄道本社は騒然となった。見張りに立っていた警備員や、社長や常務らを守るために雇われた黒服の男たちに、美住Pは後ずさることなく、ただ猛然と立ち向かってゆく。1人、また1人と倒されていく。取り押さえようとしても、それを振り払われて、本社の床に投げ飛ばされる。
『何だこいつ、強い…!!』
 その騒ぎは社長の耳にも入るが、自身で確認に行こうとはしなかった。まず自らの保身が大切と思ったからだろう。
「一体、何があったというのだ…。」
 やがて目撃した常務が社長室に駆け込んできた。
「大変です。階下にいた警備員、全員倒されてしまいました!」
 その常務は顔面蒼白になりながら、階下で起きていた騒ぎを伝えた。
「何者にだ!?」
「きららPの、元勤務先の上司という人物、たった一人に…。」
「な…何ィ!?」
 その間に、怒声やらなにやらは次第に大きくなってゆく。
 やがて、社長室の扉が勢いよく開くと、紫の長い髪をした女性…美住Pが入ってきたのだ。
「さてと、ここか。悪の親玉の居場所は。」
「おい、誰か、この不届き者を捕えろ!!」
 その声に応える者は誰もいない。社長に報告に駆け込んだ常務も、社長室の前で倒れているのが見えた。
「残念ながら、あなたが頼りにしていた、部下及び警備員、私が全員倒しちゃったのよね。なかなか腕のあるやつらだったけど。」
「くっ…。」
 社長にとって、これは全くの想定外だった。たとえ違反がバレた時など、警察が来た際に対処することを想定し、屈強な警備員やボディーガードを配置していたのだ。
 しかし、その人たちすら無力というほど、目の前に現れた人物は強かったのだ。
「一応、自己紹介くらいは常識ですからね…。私は、あおぞら銀河鉄道の車両管理室長 美住Pと申します。不届き者とは言われましたけど、あれは話も聞かずに取り押さえようとした、あの人たちが悪いんですからね。」
「その…美住Pさんか。そこまでして、何の用ですか?」
「そうですねぇ…。あなた方だったら、なんで私が来たかはわかるでしょう。私にとっては大切な後輩、きららPの事が主ですけどね。」
「…ああ、水ノ川(きららP)さんの元上司の方ですか。」
 ここまで穏やかな口調で話してきた美住Pだったが、社長と対峙していくにつれ、次第に語気も荒くなっていった。  
「さぁて、この鉄道の総責任者さん!?この前はよくも、あの事故を過剰なまでに誇張して、きららPをフルボッコにしてくれたわね!?」
「事故を起こした本人…水ノ川(きららP)が全てが悪い。どう考えてもそうだろうが。」
「安全対策もとらなければ、人員不足を補うだけの措置もとらず、既存の乗務員を振り回して、自分たちは楽しようと!?」
 背後から立ち上がってきた役員の1人が美住Pを取り押さえようとするが、いとも簡単に蹴散らされた。
「いったい、お前は、私に何する気だ!?」
 社長が再度、美住Pを見ると、その眼光からは殺気さえ感じられた。
「簡単よ。今の上層部には、鉄道を運営する資格はない。この場所から消え失せてもらうわ。」
「何を!?」
 数分格闘した末、社長も床に転がっており、気を失っていた。
 美住Pが本社から出てきたとき、何台ものパトカーが敷地内へ入ってきた。恐らく、これから強制捜査などが行われるのかもしれない。
「とりあえず、強制捜査が入るみたいね。」
「常日頃から違反だらけで、警察も水面下で調べてたみたいです。社長以下幹部は全員逮捕でしょうね。」
 きららPは、美住Pが無傷で出てきたことに驚いていた。
「本部の人間と、1人で戦ったんですよね…。よく無傷で戻ってこれましたね。」
「私が今まで対峙した敵と比べれば、全然強くなかったからね。ただ口だけの人間よ。」
「…有難うございました、美住Pさん。」
「とりあえず、この場所から離れましょうか。」
 2人は本社を後に、緑川駅へ向かって歩いた。
「この後、どうなるんですか?」
『間違いなく、運行停止でしょうね。』
 その声に2人が驚いて振り向くと、そこにはあおぞら銀河鉄道で研修を受けているはずの白雪Pと愛乃P、その後ろには絵美Pの姿があった。
 恐らく、美住PがきららPと一緒にひばりヶ丘鉄道へ行ったことを聞き、慌てて来たのかもしれない。その後ろには、乗り入れに対応していないはずのE653系が停車しているのが見える。
「今のままでは継続できないわ。改善策を出して、運転再開が出来るか…。」
「少なくとも、今回の案件で処罰が決まるはず。そこからどうするか考えましょう。」
 翌日には、逮捕された上層部役員が全員辞職することが決まり、白雪Pは急遽社長代行に就任した。緊急的に外部の検査機関に頼んで点検してもらい、即急な保線が必要となる箇所が多いこと、このままでは運行を持続できないとして路線休止を発表することとしたのでした。
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