ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)

□ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)中編
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Vol2,DreamExpress
「ここから乗るんですか?」
 美住Pが案内したのは、高架線のホームだった。列車案内板には回送列車の文字が出ている。
「そうですね。もうすぐ電車が来ますから、それに乗りましょうか。」
 しばらくすると、駅のホームに300系A編成が滑り込んできた。美住Pは編成番号の付け方として、複数編成いる車両はアルファベットを用いて、編成分けしていると説明していた。
 そのうちにドアが開き、ここまで乗車していた乗客が一斉に降りてきた。
「終点に到着です。どなた様も、お忘れ物のございませんよう、ご注意ください。」
 駅のアナウンスと、300系A編成自身の注意喚起がホームに響く。
「おっ、300系ですね。」
「この鉄道の、東海道・山陽新幹線車両の中で、500系列に次ぐ人気車両です。」
「一番好きな新幹線なんですよ。まさか、こんなに早く再会出来るとは、思わなかったです。」
「喜んでいただけて、何よりです。」
 そのうちにドアが閉まり、幕も回送表示になっていた。
「それでは、乗り込みましょうか。車内清掃も終わって、車庫へ回送ですから。」
「そうですね。」
 駅係員にドアコックを操作してもらってドアを開けると、車内へと入った。
「回送列車、発車致します。」
 発車合図が出ると、300系A編成は静かに発車した。

 300系A編成に乗ること10分、新幹線基地に入り、周りに新幹線車両がいっぱい止まっている中、隅の方の留置線に停止した。
「到着しました。」
 300系A編成から降り、3人は基地の広い場所へと移動した。
「こちらが、新幹線の基地になりますね。」
「ここがですか。歴代の新幹線電車たちがいるんですね。」
「開業時にはいなかったんですけどね。いろいろなところから集まってきて、いつのまにか大所帯にね。」
「このドリームトレインという感じが、本当にいいですね。それに、今では見なくなった300系も多いですね?」
 3人がいろいろ話しているとき、それを聞いていた一部の車両が不満な声を上げた。
「ここまできて300系先輩かよ…」
「…なんか、おもしろくないなぁ。」
「もう、本当にお前らは…僕だって、今ではこの界隈だけだぞ?」
 N700系が不満を言い出したのを筆頭に、そのすぐ先輩の700系、そして大先輩になる100系すら声を上げた。
「まぁまぁ…。この鉄道ではみんなで頑張っている、それでいいじゃない。」
 出発準備を整えている編成すら文句を言いだしたため、仕業を終えていったん帰ってきた300系A編成は何とか宥めようとした。
「さてと、300系A編成さん、運用お疲れさま。これから点検に移るわね。」
 作業員が来ると、そそくさと点検作業に移った。
「美住車両管理室長、お疲れ様です。それで、一緒にいるお二方は?」
「そっちこそ、お疲れさまね。この2人は、今日から3ヶ月間、視察を兼ねて研修に来た、ひばりヶ丘鉄道の白雪さんと、愛乃さんよ。」
「はじめまして。ひばりヶ丘鉄道管理人、白雪Pです。」
「私こそ初めまして。同じくひばりヶ丘鉄道の、愛乃Pです。」
 2人が軽く挨拶を済ませたところで、作業員の1人に説明してもらうことにした。
「なるほど。同業他社の方ですか。私はこの鉄道で、新幹線整備などを担当しています。」
「整備士の方でしたか。それにしても、この新幹線電車を整備するのも、大変なのでは?」
「どの車両でも大変ですが、安全で快適な新幹線を、動かしている一人だと思えば、全然苦ではありませんね。」
「なるほど…。」
 なぜ同じ整備士なのに、ひばりヶ丘鉄道の整備士と比べたら、何故ここまで違うのかと。白雪Pは疑問に思った。
「そういえばさっき、新幹線たちが騒いでましたが、何か気に障るようなこと言いました?」
 愛乃Pが心配そうに、さっきの新幹線たちの騒ぎの原因が自分たちだったのではないかと訪ねた。
「ああ…。あの車両たちは、名指されて褒めてほしかったんでしょう。現在および、未来を担っている車両ですから。」
「それで騒がしかったの…。傍らで100系や、始業準備中の500系A編成が、うるさそうにしてたわ…。」
「なんか、お見苦しいところを見せて、すみませんでしたね…。」
「それは別にいいんですけど…。もし、うちの鉄道で導入できるとしたら、あの2形式になるのでしょうね。東海道・山陽新幹線方面だと…。」
「そうなるかもしれませんね。時代の流れというものです。」
 そのうちに、出発準備をしていた車両の1つが、出発準備を整えたと合図を送ってきた。
「500系A編成の準備完了です。これからターミナル駅に回送します。」
「それでは、これでターミナル駅まで戻りましょうか。」
 案内してくれた整備員にお礼を告げると、3人は500系の回送列車に乗り、絢瀬駅まで戻った。
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