ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)

□ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)前編
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Vol1『舞い降りた雷鳥と星の姫』

(私とサンダーバードは、故郷であるあおぞら銀河鉄道を後に、ひばりヶ丘鉄道へと向かった。架空世界連絡線に入ってどれくらい経っただろう。ようやくトンネルの出口が見えてきた。きっと、目的地についたのだろう。)
 トンネルから出ると、その向こうには今まで見たことのない世界が広がっていた。
 しばらく走り続けると、駅が見えてきた。
 その駅に681系を停車させると、きららPは乗務員室から外へ出た。ここが目指してきた新天地、ひばりヶ丘鉄道なのだろうか。

「到着したようですね。架空世界連絡線を通ってきたけど、本当に時間かかったわね…」
 ここまでずっと走ってきた681系は、疲れたという表情を見せていた。乗務していたきららPも、長時間座り続けていたからか、少し違和感を感じていた。背伸びをしながらも、相棒である681系の問いに答える。
「お疲れ様、サンダーバード。ここが、ひばりヶ丘鉄道のようね。」
「ここが、ひばりヶ丘鉄道…。この鉄道で、私たちの新たな生活が、始まるんですね。」
 あおぞら銀河鉄道を離れ、長い道のりを走り続けてきたのには理由があった。いつかの風の便りで、少ない人数の乗務員と車両が奮闘している、小さな鉄道があると聞いた。あおぞら銀河鉄道で乗務し続けた6年間の経験を生かして、小さな鉄道の力になりたいと思っていた。
 そして、その小さな鉄道である『ひばりヶ丘鉄道』に、ようやく着いたのだ。ここまで来れば、一安心できるだろう。
 
「はじめまして。私は、この鉄道の運行管理者、白雪ゆいよ。よろしくね。」
 駅舎から出てきた一人の人物が、きららPと681系に挨拶をする。まさか、この鉄道で上の立場である白雪Pが、出迎えてくれるとは思ってもいなかった。
「私こそ初めまして。あおぞら銀河鉄道から来ました、水ノ川きららと申します。隣にいるのは、一緒に移ってきた愛用車両、681系サンダーバードです。このたびは、パートナートレイン制度を認めていただき、ありがとうございます。」
「こちらこそ、車両の数が少なかったから、車両を持ち込んできてくれて、有難かったわ。まずは一通り、この鉄道線を案内するわね。」
 パートナートレイン制度…あおぞら銀河鉄道にあった、自身が他の鉄道へ移籍する際に、愛用車両を一緒に連れていける制度。この制度のおかげで、3年位前から愛用車両としている、681系サンダーバードを、この鉄道に持ち込みできることになっていた。まず、この鉄道では在籍車両が少ないことは聞いていたし、何より、愛着を持ったこの車両とさよならをしたくなかったのが大きな理由であった。そのためパートナートレイン制度の適用を受けて、この車両とともに移ったのだ。それを許してくれた前就業先のあおぞら銀河鉄道、そして上司であった美住Pには感謝しなくてはならないだろう。
「はい。白雪Pさん、私たちこそ、よろしくお願いします。」
 この鉄道での上司となる白雪Pさんとあいさつを交わすと、まずは路線全体を案内されることとなった。681系は改修工事をするためと車庫へ入庫し、他の列車に乗車する形で線路を案内された。 
(私たちが今までいたあおぞら銀河鉄道と違って、単線のローカル線…途中に危なっかしい場所があったりした。本当に、この鉄道線でやっていけるのか、不安になってきていた。しかし、この鉄道の発展に貢献したい、そう言って、あおぞら銀河鉄道から移ってきたのだ。今更、引き返すわけにいかない。)
 何のためにあおぞら銀河鉄道を辞めて、この鉄道に移ってきたのかを、きららPは再び胸の中で連呼していた。

 いよいよ迎えた営業運転初日。これまでも乗務訓練などは行ってきたし、今までも経験もあるから大丈夫だと、きららPは自身を奮い立たせる。
「いよいよ、営業運転開始か…」
「さぁ、いよいよ営業運転ね。今日は、この鉄道で走れるように改修した、サンダーバードで乗務してもらうわ。勿論、特急運用ね。」
「やっぱり、初めて営業運転する時は、緊張しますね…。」
 きららPは早速、愛用車両である681系サンダーバードを点検した。この鉄道で使用されている安全装置を搭載する改造を受けているが、見かけはそこまで変化はないようだ。改造後、少しは試運転は行ってはいるのだろうが、やはり初めての営業運転の日は、特に緊張する。
「私も同じよ。あおぞら銀河鉄道と全く違う、別の鉄道線での初乗務…気を引き締めなくちゃね。」
「今日は初めてだし、私も一緒に乗務にあたるわ。」
「今日は一日、よろしくお願いします。」
 681系の乗務員室に2人で乗り込むと、仕業に向けて点呼確認をする。それが終わったら、いよいよ仕業が始まる。
 乗り慣れている681系から伝わる振動は、あおぞら銀河鉄道時代には経験したことのないものだった。改めて、これから走る路線はあお銀の線路ではないことを実感させられる。
(運転している車両は、あおぞら銀河鉄道時代から慣れ親しんでいる、愛用車両の681系なのに、走る線区が違う…それだけだけど、一日ずっと、本当に緊張していた。)
 小さなローカル鉄道に不相応な特急は、一日中、鉄道線内を往復していた。

 営業運転終了後、車庫へと戻ってきた。終業点検を終えたきららPに、一緒に乗務していた白雪Pが声をかけてきた。
「今日一日、お疲れさまね。本当に、あなたの運転技術は、本当に素晴らしかったわ。運転の最中ずっと真剣で。さすが、あおぞら銀河鉄道で乗務していた運転士だわ。」
「ありがとうございます。まだまだ不慣れなところはありますが、白雪さんのフォローもあって、今日はずっと、安心して運転出来ました。」
 初乗務を終えた、きららPの率直な感想だった。まだまだ乗り慣れていないこの鉄道路線で、先輩乗務員のアドバイスは不可欠であった。運行管理者でもある白雪Pの指示とアドバイスは的確で、乗客が不快感を覚えるであろう走りは一度とてなかった。
「この鉄道は、本当に乗務員が少ないから、あなたは貴重な戦力なの。いろいろ大変かもしれないけど、これからもよろしくね。」
 白雪PときららPは、並んで歩いて車庫を後に、乗務員控室へと入っていった。
(こうして、私と681系の、ひばりヶ丘鉄道での初乗務は、無事に終わった。これから大変なことは、待ち受けているとは思うけど、とにかく頑張って行こう…そう、心に誓った。)
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