ForestDrop文庫

□過去への奏鳴曲(紅の流星番外編)
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1, At the time of parting.(別れの時)
 ある冬の日、その不幸の知らせは友樹の元へと伝えられた。あの事件の後、彼は高校卒業後は専門学校へと進み、配達業者へと就職した。そして、そんな彼には幼なじみの彼女がいた。
彼女の名は『水野友里奈』。友樹が東京へ引っ越してきたとき、初めて仲良くなった2人の女の子のうちの一人。もう1人の女の子『相本綾香』は、あの事件で唯一の犠牲者となり、高校2年の夏に返らぬ人となってしまった。
元々は綾香と付き合っていた友樹ではあったが、その事件が終えんを迎えてから2ヶ月経った後、晴れて付き合いだすようになった。無論、それ以前に2人は辛い葛藤の時期があったというのはいうまでもないが…。
「友里奈が…嘘でしょ??」
宅配のトラックの中でこの知らせを聞いた。その時、彼は目の前が真っ白になった。
『水無月。俺が代わりに配達するから。今お前がいるところを教えろ。』
「いや…。水谷先輩にまで迷惑をかけるわけにはいきません。配達してから行きます。」
友樹がそういうと、電話口にいた先輩社員である水谷が急に怒鳴った。
「お前、何言っているんだ!彼女さんが懸命に病気と戦っているのに、何故お前が傍にいてやらへんねん!とにかく、お前は彼女の元へ行け!!」
「すいません…。」
友樹は電話口の水谷に現在の場所を伝えた。
「次のお客さんの所へ配達したら、近くのコンビ二で待ってな。すぐに行ってやるから。」
そうして電話が切れると、友樹は再びトラックを走らせた。次の配達場所へ荷物を届けると、近くにあるコンビ二へと向かった。既に水谷が会社の車で先に着いていた。友樹が車から降りると彼が立っているほうへと歩いていった。
「何度もご迷惑をかけてしまってすいません。」
「そんなことはいいから、お前はこれで早く行きな。後の配達は俺がやっとくから。」
友樹は深々と頭を下げると水谷の乗ってきた会社の車へ飛び乗ると病院まで向かった。
その道中、しきりに思い浮かべるのは友里奈が幾度となく見せた満面の笑みだった。熱海から親の都合で東京へ引越し、転校先の小学校では友達がいなかった彼に、最初に声をかけてくれたのは綾香と友里奈の2人だった。
あれから何年、同じ時間を過ごしてきたのだろうか。中学3年のときに綾香と付き合いだしたが、それでも3人の仲は変わることはなかった。
そして、あの事件で綾香を失って2人になってしまった。それから友樹は綾香を助けることが出来なかった罪悪感に長い間打ちのめされていたが、同じように残されてしまった友里奈とともに綾香の分も未来を歩んでいくことを互いに誓った。今、その最愛の人が懸命に生きようと戦っているのだ。
「頼む、綾香…友里奈を助けてくれ。俺を一人にしないでくれ…。」
病院へと向かう中、ずっと祈り続けていた。病院について車を止めると、教えられた病室へ急いだ。病室の前まで着くと、病室へ医師と看護師が入っていくのが見えた。
病室の中では医師が脈などを計りながら経過を見守っていた。その傍には友里奈の両親が付き添っていた。病室の中へ入った友樹は一瞬言葉を失ってしまった。最後に会った2ヶ月前にはあんなに元気だった友里奈が点滴を打たれ、酸素マスクなどを付けられてベッドの上に横たわっていた。
「あんなに元気だったのに…。」
友樹が絶句していると、友里奈の父親が友樹に気付いて近づいてきた。
「ごめんな友樹君。友里奈が君には心配させたくないと言って教えるのを拒んでたんだ。許してやってくれ。」
「いやいや…。僕こそ気付いてやれなかったのも悪かったんです。本当にすみません…。」
「いいんだよ。とにかく、友里奈の傍にいてやってくれ。」
彼女の傍へ行くと、点滴が刺されていない方の手をそっと握った。すると、彼女がそれに気付いて友樹の方を向いた。
「友樹君…来てくれたの??」
途切れ途切れになりながらも何とか話そうとする友里奈の姿に、友樹は涙を堪えきれなかったが、もう涙を拭おうとする事も忘れてしまっていた。
「もういいから…、もう喋るな…。俺は、何処にも行かないから…。」
気付くと、友里奈の瞳からも涙が溢れていた。次第に、彼女が手を握り返す力も次第に弱くなっていく。
「…ありがとう、友樹君…。」
それだけ言うと、彼女の瞳はそっと閉じ、手を握り返す力さえも無くなって友樹の手から離れてベッドの上へと崩れていった。脈拍を測っている装置が急に0の数値を出して警告音を発し始めた。友樹は急に立ち上がると、心臓マッサージをし始めた。
(友里奈…もう一度目を覚ましてくれ!!)
祈る気持ちで心臓マッサージを続ける友樹の手を医師がそっと止めた。そして、脈拍を測ると自分の腕時計で時間を確かめ、『ご臨終』という無情の宣告を出した。友里奈の両親の両親はその場に泣き崩れた。それは、友樹も同じだった。
(友里奈…俺を一人にするなよ…。ずっと一緒にいるって言ったじゃないか…。)
病院の外では予報外れの大雨が降ってきた。まるで、友里奈の為に降らせた弔いの雨とでも言うように…。
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