ForestDrop文庫

□青空の奏鳴曲(紅の流星本編作品)
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1,Pure feeling.(純粋な気持ち)
 秋の風が吹くある日の夕方、青葉台高校の音楽室に2人の生徒がいた。
「次のコンクールの演奏曲決まった?」
「全然…。今から練習しないと間に合わなくなるのに全然決まらない…。」
この2人、水無月友樹と相本綾香は2ヵ月後に行われる予定のピアノコンクールに出場するために演奏する曲を考えたりしながら、ピアノの所にいた。何よりこの2人は幼なじみで住んでいる家も隣で親同士も仲がよく、互いの心が分かり合っているくらいの仲だった。
「友里奈ちゃん、ちょっと遅いね。」
「いろいろあるんだろうな。いろいろと役職持っているしさ。」
「確か、部活も何かに入っていなかった?」
「もしかして、その部活の寄り合いが長引いているのかも。」
「私は何の部活にも入っていないけど?」
「いつの間にいたんだよ…。」
そんなことを話している間に、もう1人の幼なじみである水野友里奈が2人に気付いて音楽室へと入ってきた。彼女もまた、同じく2ヵ月後にバイオリンのコンクールがあり、練習に励んでいるのだが、最近では学校の関係で忙しい日々が続いているらしかった。
「ついさっき、ようやく終わって音楽室へ来てみたらひどい言われようでガッカリだよ。」
友里奈が少し膨れて見せると、とっさに友樹は彼女の頬をついた。
「悪かったよ。だけどな、もう少しは自分の事も考えたらどうだ?」
「そう言われても…。」
膨れた顔から一転、黙り込んでしまった。
「でも、それが友里ちゃんのいいところだからね。決まって自分が率先して出てしまう事。」
すかさず綾香がフォローを入れる。友樹も自分なりに友里奈のいいところを自分なりに探してみたが、既にほとんどを綾香に言われてしまったために思いつく言葉がなかった。
「でもさ、それが逆に弱点になることもあるからなぁ。逆に弱みになるというか…。」
「でも、大丈夫だよ。とりあえず色々な事は今日で終えてきたから。」
「それならいいけどさ。もし、文化祭の事柄だったら大問題だぞこれ。」
そうこう話しているうちに、帰宅を促す放送が流れ始めた。体育会系の部活であればほとんど関係は無いが、生徒昇降口を閉めるという放送も兼ねているのだ。
「とりあえず、帰ろうか。」
「そうしよう。ついでにどこかの音楽ショップにでも立ち寄って楽譜とか見たいし。」
そうして、3人は学校を出た。行き帰りもほとんどが同じ道という事から、自然と時間をそろえて3人で通うことの方が多く、バラバラで登下校したというのは特別な用事などを除いてほとんどなかった。
「2人はいいよね。何かと一緒にいる機会とか多くてさ。」
「お前なぁ…。ほとんど一緒にいるじゃんか。ただ少しの差で何故すねるんだ?」
「だってさ…。2人はピアノとか共通点多くていろいろ話しているのに…面白くないよ。」
友里奈がここまでふてくされるのも珍しかった。
「友里ちゃん、そんなに妬いてるの?」
「別に…そんなことはないよ。」
「友里ちゃんは本当にうそつけないタイプだね。本当に純粋できれいな心の持ち主だよ。」
そういうと、綾香は俯いた友里奈の頭を撫でた。友里奈は反論するかのように必死で抵抗するが効果は無いようだった。
「そうからかうなって。実はいい知らせがあってな。」
友樹は制服の胸ポケットに入れていた1通の封筒を取り出した。中身を取り出すとインパクトのある画像などが印刷された小さな紙が3枚出てきた。友樹はそれを一枚ずつ綾香と友里奈に渡した。
「隣町でサーカスやってるだろう。それの無料チケットをあるルートから貰ってきたんだ。今度の日曜日に3人で行こうかと思っているんだけどさ。」
「いいね、行こうよ。それにしても、よくこのチケットが手に入ったね。」
「手に入れるのも苦労したよ。どこに行ってもチケットは売り切れだしさ…。」
「テレビでCMとかやっているけど、あのサーカスすごいよね。」
いつのまにやら3人はサーカスの話題で盛り上がっていた。小学校時代からずっと一緒だった3人は気心知れた仲であり、ケンカして仲間割れするようなこともなかった。唯一、友里奈は2人と習っている楽器が違ってバイオリンのため、ピアノに関しては知らないことも多く、コンクールの時期が近くなると落ち着かなくなる。友樹と綾香はそれを知っているため、音楽だとは流行の歌やアーティストとかの話題に絞り、決してピアノの事とかを話題に上げるようなことはしなかった。
「開場が10時からだからさ、9時くらいには集まろうよ。場所は…何処がいいかな。」
「無難に…近くのバス停にしようよ。あそこだったら駅までバスとかも使えるでしょ。」
「そうしよう。必ずバスに間に合うように集合しようか。」
サーカスの会場へ行くのに集まる時間と場所を決めるまでに、分岐点まで来てしまった。以前は友里奈の家の近くから小さな階段があって、そこを通れれば2人と同じ道を歩くことが出来た。しかし、それが3ヶ月前に通れなくなってしまったため、ここから上り坂を通らなければいけなくなってしまっていた。
「また明日ね。」
友里奈が分かれて歩き出すと、再び2人になった。
「でも、あの階段が通れなくなるなんて夢にも思わなかったな。」
「あの階段が通れれば、冬とかには結構暗くなるあの道を1人で歩かなくていいのにね。」
3ヶ月前に崩れた階段は、もともと仮設だったこともあって通行止めにされたままになっていた。以前は整備されて再び通れるようにする計画だったようだが、未だに工事はされないままだった。
「皮肉にはなってしまうけどさ、何か習い事のピアノとバイオリンだな。どちらも美しい音が出せる楽器なのに、合わせられないところもあるところとか…。」
帰る道すがら、その階段まで続いていた道に通りかかった。道の左側は階段が使えたときにはまだ空き地だったが、通れなくなった時期と同じくらいに家が建った。
「家を作るのに邪魔になったのかな。」
「そうではないとは思うけど…ほかのところにも無いからなくしちゃったのかな。」
少しの間立ち止まっていたが、再び帰路についた。
「サーカスのチケット、ありがとね。」
「そんなこといいよ。俺だって一度は見たいけど、1人で見に行くのも気持ち悪いしさ。」
「なぜ気持ち悪いの?」
「俺一人で見てもただの自慢話にしか聞こえないし、3人で行ったほうが楽しいでしょ。」
友樹が言った『気持ち悪い』の意味は、綾香にはよくわからないまま、2人はそれぞれの家へと帰宅した。その日の夜は満月で、どこからともなく陽気に歌う声が聞こえてきた。いつもと変わらない平和な日々は流れてゆく。
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