ForestDrop文庫

□時の鏡2『伝説の戦士』
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1,悪を風で消し去る(ブルースターライト登場)
 数日前の戦いの後、鷹斗は何もかもを忘れ、普通の高校生に戻っていた。ここ数日は、ディルブラックと思われる怪しい人影を見かけたと言う声は聞こえてこない。
 それまでは着けていたペンダント、ディルブラックの兵士らと戦うのに、所持していた武器も、今では家に置いてある。
「数日前までは、ずっと戦いが続いていたのに…。何か、気が抜けたな」
「平和なのが一番だよ」
 学校帰り、一緒に歩いていた高宮 真琴はそう言う。彼女は一度、ディルブラックの兵士たちにつかまりそうになったし、2人の共通の友達であった松崎 仁史はディルブラックの兵士にされてしまっている。
「…やっぱり、松崎君の事が気になるの?」
「あいつ、どうなっちゃったのかな…」
「どうなったんだろうね?」
 あれきり、仁史の動向は全然分からない。彼はディグロと言う名前を与えられて、今は完全にディルブラックの手の中だ。
「あれから、高幡さんも休んでいるんだって」
「…そうなんだ」
「まったく、2人そろって学校休んで、どっかに逃避行でもしたんじゃないの?」
「それは無いと思うよ…」
 鷹斗は、高幡流華の正体が、ディルブラック幹部『キャルン』であることを知っていた。そして、仁史が敵になってしまったのは、その高幡流華が原因だとは言えなかった。
「そのうちに、何とかなるよ」
 そうは言ったが、どうすれば仁史を元に戻せるのか、鷹斗にも分からなかった。

 その翌日、いつもと同じ学校の帰り道を、鷹斗と真琴は歩いていた。
「なぜ、急にペンダントを??」
「…分からない。でも、何か気になる事があってね」
 公園の前に差し掛かると、なにやらおかしな物音と、人が逃げ惑うような声が聞こえてきた。
「何だろう…」
「…あの、黒いやつらだ」
 鷹斗はそういうより先に、公園の中へと駆けて行った。
「ちょっと、待ってよー」
 急に駆け出した鷹斗を追いかけるように、真琴もその後を追った。

『レイナ、出て来い!!』
 その場所まで駆けつけると、黒い服を着た人が数人、公園の中で何かを捜索していた。その傍らでは、一般人のどれくらいかを捕まえて、術をかけていた。術をかけられた人間は、一瞬のうちに姿を変えていた。
「…あいつら!!」
 鷹斗はすっと、首から提げていたペンダントに手をかざした。
「…風の使者、リリアン・フローよ。今、我に力を貸してください」
 すると、鷹斗の背後から強い風が吹き始め、彼の手にはそれまで無かった剣が握られていた。
「あいつらに見つからないように、どっかに隠れてて!」
 真琴にそう言うと、鷹斗は黒い服を着た集団の方へと向かっていった。
「ダレダ、オマエハ!?」
「俺は誰でもない! 俺は俺だ!!」
 一般人たちの周りにいた黒服たちを倒すと、捕らえられていた一般人たちに、すぐさま逃げるよう促した。
「早く、ここから逃げてください!」
 捕まっていた人たちが一斉に逃げ始めると、鷹斗の背後から、何か来る気配を感じた。
「邪魔をするな!!」
 反射的に避けると、背後から襲ってきた何者かと対峙する格好になった。
 ディルブラック特有の真っ黒い服に身を包んだ、ダークグリーンの髪をした女の子で、その手に握られているのは、どこかで見たことがあるような剣だった。
「誰だ、お前は!?」
「私の名は、ランディール。ディルブラック総統、ルイストールの忠実なる僕だ」
「ランディール? 聞かない名だな」
「そんなことを言っていられるのも、今のうちだぞ。倉橋 鷹斗!」
「ランディールか何か知らないが、この地球で、地球人に手を出すやつらは許さない!!」
「そんな口をほざけるのも、今のうちだぞ!!」
 その言葉とともに、ランディールは再び襲い掛かってきた。
 それを間一髪で防ぎ、そこから鷹斗は応戦していくが、今まで戦ってきた敵よりも動きは数段早く、そして技の力も強かった。
(やばい…)
 このときの鷹斗は攻撃を防ぐのに精一杯で、ランディールにダメージを与えることが出来ない。
「どうした。その程度か!?」
「…」
 体力的に苦しい状態に陥っていたとき、近くの林の中から数人の大声が聞こえてきた。
『待てー!!』
「何やっているんだ、あいつらは」
 ランディールが一瞬手を緩めると、林の中で何かを追っている兵士たちの様子を伺っていた。
 そのうちに、林の中から一羽の小さな鳥が速いスピードで飛んでくると、鷹斗の胴へと当たり、力を失ったかのように倒れこんだ。
「…大丈夫か?」
 剣を持っていない方の手で、その鳥を受け止める。
「だいぶ、弱っている…」
「ふっ…。たかが小さな鳩じゃないか」
「小さな鳥にも五分の魂。人が簡単に殺めることは出来ないんだ。無論、見捨てることもな」
「…まあいいさ。その鳩ごと、彼方の暗闇へと送ってやる!!」
 ランディールが技で剣を光らせると、再び鷹斗に襲い掛かってきた。
(クロス・フォート!!)
 何の声なのかは分からない。その声がしたのと同時に、鷹斗は光の壁に囲まれていた。
「…なんだ、これは」
「クロス・フォート… バリアーの一種です」
 その声に気づいたとき、自分が抱きかかえていたはずの小さな鳩は手元におらず、目の前で静止するかのように羽ばたいていた。
「まさか、逃げてきたこの地球という星で、風の使者に出会えるとは、思っていませんでした」
「…えっ?」
「ここで長く話しているわけにはいきません。早く、ブルースターライト・サインアップと叫んでください」
「えっ? 何て??」
「ブルースターライト・サインアップと叫んでください。それは、風の力を今まで以上に使いこなせる変身技です」
「…分かった。」
 鷹斗は剣を片手に持ったまま、反対の手でペンダントを握り締めると、さっき聞いた変身の言葉を叫んだ。
「ブルースターライト・サインアップ!!」
 その言葉を叫んだとたん、剣とペンダントが急にまばゆい光を放ちだすと、鷹斗自身も青く光りだした。
 その光が収まったときには、いつもの制服姿から、なんだか分からない服装へと変わり、声や髪の色なども変化していた。
「…何、これ??」
「あなたは、風の戦士、ブルースターライトです」
「…風の戦士、ブルースターライト??」
「今まで、戦士に変身できずに苦戦したのでしたら、その姿の方が戦闘力も断然上がります…」
 その時、その鳩は力がなくなったように、とっさに手を伸ばしたブルースターライトの手の中に倒れこんだ。
 それと同時に、今まであったバリアが周りから消え、再びランディールが襲い掛かってきた。
「そんな子供だましが、通用するとでも?」
「…それはどうかな」
 ランディールの攻撃が到達する寸前に、ブルースターライトは自らの剣で光を発生させると、それを自身の前に振りかざした。片手には、弱っている鳩を抱えているため、剣はもう一方の手で持っている。少し力は入れにくいが、片手で持つことに慣れているため、さほど苦にはならない。とにかく、今は抱えている鳩を手から落とさないことが大事だ。
「…な、なんだ??」
 その光が消えたときには、ついさっき、技を放ったばかりであろうランディールが、こちらを驚愕のまなざしで見ていたのである。
「そんな…。あの攻撃を防いだ?」
「これが、あなたの言った子供だましの力よ」
「お前は、いったい誰なんだ?」 
「悪を風で吹き飛ばし、後には平和のそよ風を。風の戦士、ブルースターライト、ただいま参上!」
「…ブルースターライト、だと??」
「この地球上で悪事を働こうとする者は、神に代わって、私が相手をしてやる」
「何を、こしゃくな!?」
「…助けて!」
「何だ?」
 声がしたほうを振り向くと、真琴が何者かに追われているかのように、必死の形相で走っていたのだ。その後に続いているのは、数人の敵兵たちだった。
「助けて!」
「…伏せて!!」
 ブルースターライトはランディールに背を向けると、剣を構えた。
「ラインディング・ウィング!!」
 真琴がとっさに横にそれたのを見計らい、技の名前を大声で叫ぶのと同時に剣を振り下ろした。
 剣からは青い光が放たれ、真琴を追いかけてきただろう敵兵たちは姿を消していた。
「お前の相手は、私だ!」
 何者かが後ろから来る気配を感じ、ブルースターライトはとっさにそれ避けると、その敵に蹴りを放った。
「うっ!」
 その蹴りをまともに受けてしまい、ランディールはその場に倒れこんだ。
 それを見計らったかのように別の兵士たちが現れると、力なくぐったりしているランディールに肩を貸した。
「ブルースターライト! 次に会うときには、こてんぱんに叩きのめしてやるから、覚悟していなさいよ!!」
「…ランディール様、落ち着いてください」
 語気を荒げて叫ぶランディールに、兵士たちが宥めながらも肩を貸しながら、その場から立ち去っていった。
「…ありがとうございました」
 すぐ近くの茂みの中に隠れていたのだろう、真琴が目の前に出てきた。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
 多分、真琴は目の前にいる戦士『ブルースターライト』が鷹斗とは気づいてはいないだろう。何より、気づかれてはいけないという気が、直感的にした。
「怪我、してない?」
「何とか…」
 真琴はふと、ブルースターライトが抱きかかえている小さな鳩に目がいった。
「どうしたんですか? その鳩…」
「いまさっきの、変な人たちに追いかけられていたみたいで、私が助けたら、そのままぐったりしています…」
「私が連れて行って、手当てしますよ」
「そうしてもらえれば、助かります」
 抱きかかえていた鳥を、そっと真琴の手の中へと移した。
 真琴の手に渡してあれば、後で会うことも出来ると、そう思っていたからだ。
「さっきの悪い人間たちが、この辺にいるかもしれません。はやく、この場所から離れて」
 真琴が立ち去ると、ブルースターライトは「サインアウト」と叫び、変身を解除した。
「…風の戦士、ブルースターライトか。まさか、自分が戦士に変身するなんて、考えたこともなかったな」
 鷹斗の姿に戻ると、急いで真琴の後を追った。
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