ForestDrop文庫

□時の鏡〜ゲームの世界からやってきた少女〜
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1,遭遇
 秋の深まる夕暮れ、埼玉県内の公立高校に通う2年の主人公『倉橋 鷹斗』は、学校を後に家路を急いでいた。今日は休日を明日に控えた金曜日だからバイトはないし、家へ帰ったらテレビゲームでもしようかと考えていた。
 自宅まで後数百メートルのところへ来ると、目の前を一つの黒い影が横切っていった。
「何だ、今のは?」
 一瞬の出来事だったが、それが頭から離れず立ち止まって首をかしげた。すると、今度は黒い影が去っていた方から、何かがぶつかるかのような、すさまじい音が聞こえてきた。
「…俺は、夢でも見ているのか?」
 また歩き出そうとした時、今度は目の前に黒い影が飛んできた。さっき、目の前を通り過ぎていったのとは違うようだ。
「コンドハ、オマエダ…」
 目の前にいる謎の物体が、自分を襲おうとしているのは分かっていた。そこから何とか逃げようと、とっさに後ろへ下がろうとして後ずさった時、バランスを崩して尻餅をついた。恐怖のあまりに目を一転に見張ったまま声も出ない。その謎の物体が光を放とうとしているのを見て、もうだめかと目を瞑った時、その光が何かによってさえぎられた。
「一般人を襲うな!お前の相手は、私だ!!」
「ナニヲイウ、ジャマヲスルナ!」
 その声が耳に入り、再び目を開けると、自分と黒い影との間に割って入るかのように、1人の少女が立ちはだかっていた。
「何も知らない一般人を襲って何になる。今、あなたの思い通りにはさせないわ!!」
「ソンナコト、カンケイナイ。オマエト、ソノニンゲンゴトタオシテクレルワ!」
「あなたに私は倒せないわよ。必殺!シューティング、ファイア!!」
 目の前の少女が、黒い影に向かっていき、何かを叫んだ。すると、赤い光が目の前で爆音とともに炸裂し、目の前にいたはずの謎の物体は消えていた。
「大丈夫?怪我は無い??」
 鷹斗が唖然としていた時、目の前に少女が降りてきた。鷹斗が怪我をしていないか、気にかかっているようだ。
「…大丈夫です」
「そう、よかった。あなたがさっきのことに巻き込まれていたら、どうしようかと思ったわ」
「…それより、助けてくれてありがとう。えっと…君の名前は?」
「…名乗るほどでもないわ。きっと、出会うことは無いだろうから」
それだけ言うと、その少女は去っていった。
 鷹斗が再び歩き出すと、テレビゲームのことはすっかり頭から消えて、さっき出会った少女の事が頭にインプットされていた。
「…何か、どこかで見たような」そんな事を考えているうちに、家へと着いた。
「ただいま」
 返事が無い、静かな家の中へと入ると、自分の部屋へ入った。そして、おもむろにテレビとゲーム機の電源を入れた。
「えーっと、どこまで進めていたかな…」
 ゲームの画面が現れる。とりあえず、適当なセーブデータを読み込んでゲームを始めた。
「あれ…?」
 主人公のキャラクターについてきている仲間のうち1人に、目が止まった。
「セントル・ランディア…」
 確か、主人公の幼なじみとして登場する、このゲームのヒロイン的なキャラだ。鷹斗は特に、このヒロインを気に入っていて、持っている携帯電話の待ち受け画面は、このヒロインが力闘する場面の絵にしてある。
「…何か、似ているなぁ」
 さっき出会った少女の目鼻立ちや服装などのあらゆる特徴が、このゲームのヒロイン『セントル・ランディア』に似ていたのだ。まさか、あのヒロインがゲームの世界から現れてきたのではないかと推測までしてしまった。
「多分、なんかの夢だ」
 ゲームをする気が失せてしまい、少し進めただけで終わらせてしまった。
「さてと…夕飯を支度するかな」
 鷹斗の両親と妹は大阪にいて、この家には鷹斗1人だけしかいない。父親が転勤した先へ、母親は中学生となる妹ともに移り、向こうで会社の寮を借りて3人で暮らしている。
 鷹斗はというと町を離れる事が嫌だったために、留守番という意味合いを重ねて、1人暮らしをしていた。1人きりで寂しい反面、自由気ままである。この生活には既に慣れてしまっているため、今の生活を満喫していた。
「さてと…」
 鍋に水を入れて火にかけると、沸騰するのを待っていた。何分か経ち、そろそろ沸騰するだろうと鍋のふたを手に取ろうとした時、近くから何やらすさまじい音が聞こえてきた。
「何だ??」
 火を止めると家の外へと飛び出し、音のする方向へと目を向けた。赤い光と青い光が相互に発生しているのが見えた。
「花火じゃないし…。まさか、あの少女が戦っているんじゃないか??」
 いてもたってもいられなくなり、護衛用にカッターとかをしのばせると、光の発生しているほうへと向かって走り出した。
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