光ヶ丘鉄道の一日(小説版)

□あおぞら銀河鉄道にて
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1,どたばたの始まり
「機関車の修理依頼?」
 あおぞら銀河鉄道絢瀬総合車両センターの事務所で、車両管理室長である美住Pと、運転主任である絵美Pが話していた。
「ひばりヶ丘鉄道の赤雪さんから、その問い合わせが…」
「どういう依頼?」
「光ヶ丘鉄道のC56が、スプリングと計器類が壊れて、使用できない状態だと。スプリングは予備部品を出したのですが、計器類に関しては修理や交換が無理で、うちで修理してほしいとの事です」
 美住Pは疑問を感じた。なぜ修理対象の車両の所有者である光ヶ丘鉄道ではなく、他社…ひばりヶ丘鉄道から依頼されるのかと。
「なるほど…。疑問なのは、なぜひばりヶ丘鉄道から、光ヶ丘C56の修理依頼が来るのかと」
「きららさん関連でしょうか」
「多分そうね。きららPさんがC56を診て、修理だか予備部品の提供を、ひばりヶ丘鉄道に頼んだんでしょう。でも、計器類の予備が無いから、うちに頼んできた…と考えればね」
 美住Pも不思議に思ったが、それほどまでに切羽詰まった事なのだろうか…ただ考えられる理由はそれくらいしかないため、無理やり納得するしかなかった。

 その前日、絢瀬総合車両センターの留置線。
 運用の合間に休憩を取っていた、EF510-509号機とEF81-95号機。これからどこへ行くのかを話していた時の事だった。
「これから、架空世界連絡線を往復。今度は光ヶ丘鉄道のC56を、こっちまで運ぶんだってさ」
「他所の機関車を?」
「昨日だかに、絵美Pさんの所に電話が来てね…」
 EF510-509号機は、絵美Pが電話越しに誰かと話していた内容を聞いていた。

『はい、あおぞら銀河鉄道ですが』
(久しぶりね、絵美)
『久しぶりね、赤雪さん』
(私は今、ひばりヶ丘鉄道の運行管理者になっているんだけど…。実は相談があるのよ…。ひばりヶ丘の事ではなく、光ヶ丘鉄道の事なんだけどね…)
『えっと…それはどういうこと?』
(その光ヶ丘鉄道には、うちにあるのと同型のC56があるんだけど、その機関車が故障を起こしたらしくて…。うちではどうしようもないから、絵美のところ…あおぞら銀河鉄道さんに頼みたいんだけど…)
『分かったわ。受け入れ準備は整えておくわね。』
(断られたら、どうしようと思ったわ…。向こう…光ヶ丘鉄道の人たちには、私から日程とかは伝えます)
 電話が切れると、絵美Pはため息をついた。
(やれやれ…)
「どうしたんですか?」
 声に気づいた時、絵美Pの傍らには同僚の美嶋Pの姿があった。
「ひばりヶ丘鉄道にいる、私の元同僚からなんだけど…」
 隠す必要もないと、同僚に包み隠さず話す。
「光ヶ丘鉄道の機関車…C56が故障したらしくて、修理依頼の連絡が来たのよ。」
 車両たちが休む留置線のすぐ近くで電話をしていたため、自然にEF510-509らにも聞こえていたようだ。
「修理依頼を?ひばりヶ丘鉄道のではなく、光ヶ丘鉄道のC56の修理?」
 疑問に思うのも無理はなかった。電話の主…ひばりヶ丘鉄道運行管理者である赤雪Pが依頼したのは、自社車両ではなく他社車両の修理であることだ。
「ひばりヶ丘のC56だと、私も思ったんだけどね。とりあえず、甲種輸送の日時を組みましょう…」
 絵美Pはそう言うと、再びどこかに電話をかけていた。
「なぜ直接ではなく、間接的に頼んできたのでしょう…」
「分かるとすれば、ひばりヶ丘鉄道で対応できなくて、こっちに頼んできた…ということなのでしょう」
 美嶋PとEF510-509は、今回の案件に疑問点が多かった。しかし、目の前で誰かに電話をかけている絵美Pの方が、一番疑問を抱えているだろう。

 翌日、EF510-509号機は、その甲種輸送を以前担当したことのあるEF510-17号機らの話を聞いた。
「連絡線のトンネル内で、機関車を交替?」
「そうなんだよ。光ヶ丘鉄道の駅まで行って、そこで機関車を引き渡し…じゃなくて、トンネル内で交替だったんだ。向こうは蒸気機関車だったから、煙たくてね…」
「そうなの」
 かなり難儀な甲種輸送のようだ。駅で機関車の付け替えを何故せず、トンネル内でやるのか…。
「牽引車両はC56…C12を運んだ時、トンネルの途中まで迎えに来ていた、あの機関車ね」
「長い行程だから、気を引き締めないとね…」
 今回の甲種輸送を担当する、EF510-509と真理恵Pは気を引き締めていた。

 4日後、EF510-509号機はC56及び客車を牽引して、架空世界連絡線を走っていた。ひばりヶ丘鉄道と光ヶ丘鉄道の間にあるトンネルでC56及び客車の引き渡しを受け、あおぞら銀河鉄道総合車両センターまで向かっていた。
 あおぞら銀河鉄道絢瀬駅に到着した時、EF510-509号機と真理恵Pはホッと一息をついた。
「やれやれ…ここまで来れば、もう一息ね」
「あおぞら銀河鉄道、絢瀬駅まで来たわ。もう少しで総合車両センターよ」
 その声に、被牽引側のC56も反応する。
「長い旅だったな…」
「あともう少しよ」
 やがて信号が青になり、EF510-509号機の牽引する列車は、残りの道程を進んでいった。

「何とか到着だわ…」
「長い道のりだったわ…。あおぞら銀河鉄道、総合車両センターに到着ね…」
 総合車両センターの留置線に到着し、EF510-509に乗務していた真理恵Pは外に出て、ぐっと背伸びをした。
「長い旅だったな…。ここはどこだ?」
「あおぞら銀河鉄道、高町総合車両センターよ」
 きららPが客車から降りると、C56の点検をしながら話す」
「この鉄道車両全ての、検査や修理を、この場所で行っているのよ」
「ここが、あおぞら銀河鉄道ね…」
「本当に別世界だな…」
 光ヶ丘鉄道とは全く違う光景に、白雪PとC56はため息をついた。所狭しと敷かれた線路、その上に張られている架線、そしてなにより、留置線にいたり、工場で検査されている車両の多さ…今いる車両センターの規模といい、比べ物にならなかった。
「まさか、こんなに早く…前の就業先に来るとは、思いませんでしたけど」
「この鉄道をモデルに、光ヶ丘鉄道を発展させたいわね」
「半年くらいしか経ってないのに、こんなに懐かしいとは…」
 きららPにとっては、全てが見覚えのある光景であり、一種の懐かしさを感じていた。
「本当に、聞いていた通りの鉄道ね」
 きららPから時折聞いていた、前就業先の"あおぞら銀河鉄道"の事。今見えているのは、ほんの片鱗なのだろうが、それを目にした白雪Pは、その感想を言葉に出来なかった。

 白雪Pらが話していた時、何やら表らしきものを持った人物が彼女らに近寄ってきた。
(これが、光ヶ丘鉄道のC56形か…)
 表を手にした人物…絵美Pは、白雪P及びきららPに挨拶しつつ、その機関車の状態を目視で確認し、見た目から分かる状態を表に書き込んだりしている。
「光ヶ丘鉄道C56さん、これから検査をするわね」
「検査?修理じゃなくて??」
「壊れた場所は無論だけど、その他にも不具合があるといけないから」
「そうですか」
 まずは修理すべき箇所を洗い出すべく、絵美PはC56を検査する事を告げた。すぐにでも修理してくれるものと思っていたC56はきょとんとしたが、相応の理由を言われると、何も言えなかった。
「それでは、早速検査しますか…。ここで修理できればいいけど…」
「どんな結果が…」
「私にもわからないですね…」
 C56が入換されて検査ピットに入ると、そこで待機していた作業員らが作業に取り掛かっていた。
「検査結果に関しては、後でお知らせするとして…。どういう使い方をしてたとか、お聞きしたいのですが…」
 絵美Pはすぐさま白雪Pに、最近のC56の使用状況などを聞き取っていた。光ヶ丘鉄道での保管及び使用状況なども、決して良好とはいえなかった。

「用が済んだから来たわ。えっと、この機関車?」
 やがて検査ピットに、また1人やってきた。検査する作業員たちが一旦手を止め、その人に挨拶している。その人は1人1人に挨拶を返し、そして表を持っている絵美Pの所で立ち止まった。
「この機関車ですね。光ヶ丘鉄道所有のC56ですが、向こうの担当者…きららPさんの判断だと、車輪のばね部分、そして計器類がダメですって。ばね部分の部品は、回送の時に必要だからと、ひばりヶ丘鉄道から部品もらって、とりあえず直したようです」
「なるほど。後は計器類を直せばいい…」
 美住Pはそこまで聞くと、再び機関車を見回した。検査員は次々と箇所を点検し、気になった箇所があったら、近くにいる別の作業員に来てもらって話し合ったりしている。どう見ても、一筋縄ではいっていないような様子である。
「それだけで問題が収まるかしら、この機関車」
「どういうことですか?」
「きららPさんが発見したのは、壊れたバネと計器類。いろいろと不具合はありそうよ。見かけはまともでも」
 バネ類などは交換されているとはいえ、それ以外…走行にかかる部品での不具合がきっとある。それもなければ、突然走れなくなることはないはずだと、美住Pは推測していた。
「そこまで悪くないぞ?」
「検査してみたら、事実が明らかになるでしょうね。まだ不具合があるのかも…」
 検査が進んでいくにつれ、徐々に明らかになっていく、現状のC56の状態。それは誰もが思っているより、斜め下を行くものだった。
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