光ヶ丘鉄道の一日(小説版)

□光ヶ丘鉄道の一日(小説版)前編
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5, ひばりヶ丘鉄道からの乗務員
元:光ヶ丘鉄道の一日 4話
 
「あゆみさんお疲れさま。到着したわ」
 8620形蒸気機関車が見つかった日の午後、光ヶ丘入口駅に681系サンダーバードが到着した。運転していた白雪Pとともに、ひばりヶ丘鉄道から乗ってきた1人の乗客が降りてきた。
「お疲れ様です。ここが光ヶ丘鉄道ですか。ここで、新たな生活が始まるんですね」
 その乗客とは、ひばりヶ丘鉄道から移ってきた山吹Pだった。彼女もまた、この鉄道の乗務員として招かれたのである。
「現在、機関車1台が故障してて、てんやわんやしてるのよ。とりあえず、三ノ輪機関区まで行くわよ」
「あともう一息。頑張りますか…」
 2人は再び681系に乗り込むと、光ヶ丘入口駅を後にした。

 その頃、きららPが指導を兼ねて、桃園Pとともに乗務するC12は客車をけん引し、旅客運転していた。やがて三ノ輪駅に到着すると、機関車及び乗務員は一息ついた。
「三ノ輪駅到着。機関車1台減ったら、本当に忙しくなったな…」
「C12君が来たから、まだ運用出来ているけどね…」
 運行する列車の本数は少ないとはいえ、2台の機関車でフル運用を強いられている。旅客運用だけで言えば、きららPとともにあおぞら銀河鉄道から移ってきた681系電車で出来そうだが、祝休日や臨時運用を除いて使用されない。せっかく作られた電化設備も、681系電車以外に使用する車両はなく持て余し気味になっている。 
「そういえば、白雪さんはサンダーバードで、どこへ行ったんですか?」 
「ひばりヶ丘鉄道へ、人を迎えに行ったのよ。ついでにC56の事を聞いて、部品もらってくるんじゃない?」
 今朝、白雪Pから話を聞いていた。C56用の部品を譲ってもらいに行くのと同時に、向こう…ひばりヶ丘鉄道で働いていた乗務員の1人が、光ヶ丘鉄道へ移ってくることになった事を。恐らく、一緒に連れてくるのだろう。
「あゆみから連絡あったわね。今日こっちに移るって」
「あゆみさんも、こっちに来るのか」
 桃園Pとはひばりヶ丘鉄道時代からの同期であり、親友でもある。当然、C12もひばりヶ丘鉄道時代には彼女らが乗務していたこともあるため、面識はあった。
(…やっぱり、小雪はこっちには来ないのね)
 山吹Pからは、もう1人…赤雪Pの名前を聞かなかった。恐らく、彼女はこっちの鉄道へ移ることを固辞したのかもしれない。
 
「回送列車、三ノ輪駅に到着しました」
 その頃、681系サンダーバードは三ノ輪駅に到着し、機関区へ入線する準備に入っていた。
「三ノ輪駅に到着ね。お疲れさま、サンダーバード」
 そのうちに、C12の牽く客車列車がすれ違うように出発していった。すれ違いざまに、C12は合図するかのように汽笛を鳴らした。
「さっそくC12と再会できるとはね」
「あかり(桃園P)さん、今は指導教官としてきららさんがついて、研修の最中なの」
「研修中ですか」
「そういうこと。いずれ、あなたも研修を受けてもらうんだけど、まずはC56の所に、部品を運んでおきましょうか」
 681系の車内には、蒸気機関車用の部品が入った箱が積まれている。それを故障しているというC56形蒸気機関車の所に運ぶのだろう。やがて機関区への引き込み線へのポイントが開き、681系は機関区へと入っていった。
 
「はぁ…。動けなくなって、だいぶ経つな」
「ため息が増えてきたわね。まぁ、休暇だと思えば」
 三ノ輪機関区では、故障により動けなくなっているC56がため息をついていた。山吹Pとともに部品の入った箱を運んできた白雪Pが、何とか宥めるのだが、自身が動けない事が情けないらしい。
「その分、C12とかに迷惑かけてると思うと、情けなくて」
「とりあえず、車輪のばねとかは来たから、きららPさんが来たら組んでもらうわ。計器類の事もあるから、回送の前準備かしらね」
「回送前提か…」
 この鉄道にある設備では、C56の修理が出来ないことは結論づいている。そのため、ひとまず走ることに支障が無いように応急措置をして、相応の修理設備のある、あおぞら銀河鉄道の車両工場への回送が予定されている。
「たまには、外の空気を吸ってくるのも、いいんじゃない?」
「C12を連れに行った時、行けなかった向こう側か…」
 ひばりヶ丘鉄道からの譲渡車であるC12を受け取った際、C56が待機したのはトンネルの中。そこでひばりヶ丘鉄道から牽引してきた電気機関車と引継ぎをし、C12を三ノ輪機関区まで牽引してきた。その先にはどんな線路があるのだろうかと、疑問に思っていた。
「とりあえず、荷物を降ろすのは終わったから、トーマスを使って貨物運用ね」
「トーマス?機関車ですか??」
「うちには機関車が3台いて、1台がC12、このC56、そしてもう1台、タンク機関車のトーマスがあるのよ」
「なるほど…」
「とりあえず、まずはトーマスを運転して、貨車と連結ね」
 C56の傍らに部品の入った箱を置くと、2人はトーマスが止まっている線へと向かった。

「それじゃ、この貨車とトーマスを連結ね。ところで、入換操作とかはやったことある?なかったら、今回は私が動かすけど」
 白雪Pはまず、山吹Pに機関車で入換をやった事があるかを聞いた。先に来た桃園Pは、誘導はしたことがあっても、自身で機関車を入換したことが無かったからだ。
「入換操作はやったことあるから大丈夫です。指示してもらっていいですか?」
 白雪Pは頷き、山吹Pが操作するトーマスを誘導しながら、三ノ輪機関区から貨車が置いてある三ノ輪駅の留置線まで向かう。
 やがて留置線に入り、貨車の手前まで来ると、白雪Pはトーマスを降り、旗を振って誘導をする。
 ガチャン…
 トーマスと貨車の連結が終わると、トーマスは出発できると合図を出した。
「連結OK。いつでも出発できるよ」
 誘導していた白雪Pも乗り込み、列車は三ノ輪駅を出発した。

 運用終了後、C12が三ノ輪機関区へ戻ってくると、トーマスの点検をしている白雪Pと山吹Pの姿があった。
「白雪Pさん、お疲れさまでした。それでC56の件はどうなったんですか?」
 きららPは新たに来た山吹Pに軽く挨拶すると、C56の件を聞いた。
「きららさん、あかりさん、お疲れさま。C56については、一応走行にかかる部品は貰って来たけど、計器類はこっちで見ないと分からないって。回送する手はずも整えてきたわ」
「そうですか。その部品はどこですか?」
「C56のところに置いてあるわ。」
「わかりました。とりあえず、組んでみますね」
 きららPはC12をその場で軽く点検すると、C56が留め置かれている検修庫まで向かった。

 しばらく経って、白雪Pが検修庫へ行ってみると、きららPが破損している部品を交換していた。
「ばねの方は大丈夫ですね。それで、回送の日程とかは?」
「回送は10日後の朝。C12で連絡線の引継場所まで回送ね。そこで向こうの機関車に引き継ぎね」
「分かりました」
 なぜ光ヶ丘入口駅ではなく、わざわざトンネルの中で引継をするのだろうかと、きららPは疑問に思った。しかし、決定している事なら仕方ないと、後はそこまで考えなかった。

 C56を回送する予定の2日前、整備や点検を行っていた8620形蒸気機関車がようやく運行可能な状態になり、火入れの後で試運転が行われた。
(いやぁ、懐かしいなぁ…)
 8620形は試運転中、周りの景色の変化を眺めつつ、昔と変わりない線路の感触を確かめていた。

 そして、回送当日の朝。
 三ノ輪機関区はいつもより騒がしかった。
「それじゃC56、連結するよ」
 桃園Pが誘導、山吹Pが8620形を動かし、検修庫の中のC56と連結作業を行う。
 ガチャン…
「連結完了。これから引継点まで回送」
「無事に治るんだろうか…」
 C56の後ろに客車を連結し、修理内容を説明するため同伴する白雪PときららPが乗り込んだ。この回送列車の行き先は、あおぞら銀河鉄道の総合車両センター。ひばりヶ丘鉄道では修理は出来ないため、間接的にあおぞら銀河鉄道まで問い合わせしていたようだ。
「回送列車、出発進行」
 やがて回送列車は三ノ輪機関区を離れて行った。

 それから2時間余り後、単機回送で8620形が三ノ輪駅まで戻ってきた。
「三ノ輪駅到着。C56が元気で帰ってきてくれればいいな」
 連絡線内の引継点で待機していた電気機関車に繋ぎ変えられ、C56と客車は連絡線の向こうへと走り去るのを、8620形と乗務していた山吹Pは見送ってきていた。
 C56の状態がどうなのかは分からないが、いつか直って復帰してほしいと、切に元同僚らは願うのであった。
  
 白雪Pがひばりヶ丘鉄道の再建着手を知ったのは、この回送の時であった。
 この時は貨物列車扱いでひばりヶ丘鉄道線は通過だったが、その車窓から見たひばりヶ丘鉄道は、明らかに以前、山吹Pを迎えに行った時とは違っていた。ひばりヶ丘鉄道で旅客運行されているのは全て電車であることは知っていたが、あおぞら銀河鉄道と連絡線がつながり、明らかな変化が見られるのだ。廃止間近と言う噂がたち、そこで乗務していた2人…桃園P及び山吹Pの意思とは言え、事実上"引き抜いた"が、その時とは全然違う程、路線は活気づいていたのです。
(これが、あの時…廃止間近とまで言われた、ひばりヶ丘鉄道の現状…)
 形だけの電化路線で、その設備を使う車両は限られている。今も主力が蒸気機関車という状態の光ヶ丘鉄道とは、ほぼ雲泥の違いだったのです。
 これ以上無下にすることは出来ないと、白雪PたちはC56をあおぞら銀河鉄道に預けてから、慌てて光ヶ丘鉄道に戻り、改めてひばりヶ丘鉄道へ訪問する事になる。
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