ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)

□ひばりヶ丘鉄道の一日(小説版)中編
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Vol1,あおぞら銀河鉄道へ
 地域の交通を便利にする、その使命を果たすべく、ひばりヶ丘鉄道の開業に尽力した人物がいた。その人物とは、この鉄道の管理人でもある、白雪Pだった。様々な紆余曲折の元、開業したひばりヶ丘鉄道ではあったが、運行を開始してからも、多くの問題を抱えていた。開業時より列車の運行を担当しているのは、他の鉄道から転職するなど集まった乗務員たちがほとんどであった。
 その乗務員も少数しかおらず、ギリギリの状態での運行が続いている。白雪Pは現状の打開を目指し、自らも運転士として乗務出来るよう、技術の習得を決意する。
 運転に関する研修を受けるのは無論、ひばりヶ丘鉄道が抱えている、多くの問題を解決する糸口を見つけ、そして鉄道を大きくしていくためのヒントを得る、大きな2つの目的を果たすため、ある鉄道を訪ねるのであった。その鉄道とは、嘗てきららPが所属していた、あおぞら銀河鉄道線。この鉄道へとやってきた白雪Pは、いったい何を見るのだろうか?

 早朝のあおぞら銀河鉄道絢瀬駅に、ひばりヶ丘鉄道から発った681系が到着した。
「はい、到着しましたよ…。やっぱり、道中長いわね…。」
「ありがとうね。きららPさん。」
「きららPさん、ありがとうございます。」
「いえいえ。まさか、こんなに早く…前の就業先に来るとは、思いませんでしたけど。」
「ここが、あなたたちが働いていた、あおぞら銀河鉄道ね…」
 ホームに降り立ったきららPは、久々の故郷を見まわしていた。運転してきた疲れはあるものの、明るさは少しづつ戻っているようだ。白雪Pと愛乃Pには、目に映るもの何もかもが目新しく映っていた。
「懐かしいわ。在籍していた期間は、それほど多くなかったけど。」
「3ヶ月くらいしか経ってないのに、こんなに懐かしいとは…。」
 きららPと681系は、口々に懐かしいという言葉を発していた。
「本当に、聞いていた通りの鉄道ね。」
「本当にすごい鉄道ですね。」
 白雪Pと愛乃Pが周りの景色に関心を示していると、列車の通過アナウンスが鳴り始めた。
『まもなく、1番線を、特急電車が通過いたします。危険ですから、黄色い線の内側まで、お下がりください。』
 それからまもなくして、電車が轟音と風を伴って通過して行った。
『まもなく、2番線に、各駅停車、神宮寺行きが参ります。黄色い線の内側まで、お下がりください。』
 今度は通勤電車がホームへ停車し、客扱いをすると、安全を確認してから発車していった。
「相変わらず、電車の本数も多いね。」
「ひばりヶ丘鉄道も、これくらい大きくしたいわね…。」
「早く乗務員増やすとか、対処してくださいよ…。車両増やしても、肝心の乗務員いないと、話になりませんよ…。」
「今の運行体制では、無理でしょうね。」
 白雪Pと愛乃Pはため息をついた。改めて、所属するひばりヶ丘鉄道と、このあおぞら銀河鉄道とでは、規模が違い過ぎることを実感させられるのであった。

「ようこそ。あおぞら銀河鉄道へ。私がこの鉄道の最高責任者、美住です。」
 それから少し経って、1人の人物が慌てて駆け寄ってきた。白雪Pは電話で聞いていた声と照らし合わせて、その人が美住Pであると分かったようだ。
「私こそ初めまして。ひばりヶ丘鉄道の管理人、白雪です。本日は、よろしくお願いします。」
「お久しぶりです、美住Pさん。」
 久々に見た元上司の顔を見て、きららPの表情は少し緩んだ。ようやく帰ってきたという実感を持ったのかもしれない。
「えっと…。お久しぶりです。美住Pさん。」
「久しぶりね。あなたときららさんが移って、どれくらい経つかしら」
「どのくらいでしょうね。ざっと4ヶ月くらい??」
「3ヶ月ね。あの日、美住Pさんたちが見送りに来てくれたのを、鮮明に覚えていますね。」
 3ヶ月前、きららPと681系がひばりヶ丘鉄道へ移った日。美住Pをはじめ、何人かの運転士仲間が、この絢瀬駅へと見送りに来ていた。
「3ヶ月か。なんか、2年くらい経っているような気がするけどね…。」
「そんな大げさな…」
「冗談よ。でもまぁ、本当に長い年月が経っていたような気がしたわ…。」
 美住Pは感慨深そうに頷く。
「えっと…白雪さん。訪問内容というのは、うちの鉄道の視察と、研修ですか?期間は3ヶ月と、書類に書いてありますが…。」
 ふと我に返った美住Pは、白雪Pから差し出された書類に目を通し、その内容を確認した。
「そうですね。お恥ずかしいところですが、私はずっと本部で仕事していて、列車の運転とかは、きららPさんを初めとして、乗務員に任せっきりだったんですよ…。そんなもので、いつまでも任せているわけにもいきませんし、運転技術とかを、こちらで学ばせていただきたいと思って…。」
「そうですか。」
 ほぼ電話で打ち合わせした内容であることを確かめると、もう一人の人物に目を向けた。
「そういえば、まだもう一人の方の、お名前を聞いていませんね。」
「挨拶が遅れてすみません。私は、同じくひばりヶ丘鉄道の、愛乃Pと申します。」
「研修を受けにきたのは、私と愛乃Pの2人です。本当に人手不足の状態なので、出来るだけ早くに、乗務できるようにしたいと、思っています…。」
(人手不足…それ以上の問題でしょ…)
 白雪Pの言葉には内心、きららPは快く思えなかった。今はただ、ここまで運転してきて疲れているため、そこまで言葉が出なかった。
「そうですか。ちゃんと基本から的確に、一から教えていきますね。」
 人手不足というのは電話で知っていた美住Pは、まずは将来的な解決策ということで2人の乗務員教育を実施し、さらに急を要する際の対策も視野に入れていました。ただ、後者に関してはまだ白紙段階であり、そこまで込み入った話をしようとはしていなかった。
「ありがとうございます。」
「とりあえず、まずはあおぞら銀河鉄道線を、見て回りましょうか。視察というには、程遠いかもしれませんが。」
「そうですね。よろしくお願いします。」
「ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。視察場所のリクエスト、何かあれば聞きますよ。」
 まずは2人が、このあおぞら銀河鉄道を視察するらしく、美住Pが重点的に見たい場所とかのリクエストを聞いている。見せるポイントをあらかじめ決めておらず、あくまで見に来た人に合わせているのが、良くも悪くも美住Pのスタイルらしい。
「そうですね…。まずは新幹線の基地を視察したいのですが。東海道・山陽新幹線の。」
「わかりました。どうぞ、ついてきてください。車両基地まで離れていますので、ここから回送電車で移動します。」
 そういうと、美住Pは2人を連れて移動を始めようとする。完全に、きららPと681系のことを忘れている感じだ。
「あの…私たちはどうしたらいいんですかね?」
 681系から疑問を投げかけられ、美住Pは「はっ!?」とした。営業列車が多くなり始めると、いい加減に停車している681系が邪魔になる。
「どうしましょうね…。」
「同行したいのは山々なんですが、疲れてまして…。駅の当直室を借りて、休んでいていいですか…。」
「駅の事務室に連絡して、当直室と留置線を開けてもらうわ。681系は留置線で休んでいたらどう?長く走ってきたみたいだし、疲れているでしょうから。」
「そうしてもらえれば有難いです…。」
「有難うございます…。」
 美住Pは慌てて携帯電話を出すと、駅事務室に電話を掛け、開いている留置線を確認し、これから1人行くから当直室を空けておいてくれと頼んでいた。全てを確認し終えると、きららPと681系に空いている留置線と、駅の当直室を開けてもらったこと、留置線で作業員さんに待ってもらって、きららPを駅構内の当直室に案内してもらうように加えて頼んだことを伝えた。
 あとは自分でも大丈夫と、きららPがいうと、美住Pは不安になりつつも、白雪Pと愛乃Pを案内してホームを後にしていた。
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