NoVEL V

□神(堕)の往く道
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 気付かないふりをして続ける。彼女には酷だが、現状の理解には必要だ。
「王都オルダスと、ここゼーエンは、いくら鉄道があるとはいえ、樹海を挟んでいる上に、ずいぶん離れています。国民の危難に駆け付ける軍隊といえど、首都の部隊を送るのはおかしい。近隣の街にも駐屯地はありますからね。
 それに、ここは辺境といえど、一大教会市です。軍が一応の協力関係にある教会の領土を侵犯する可能性を圧してまで、貴方を追う理由は何ですか?」
 矢継ぎ早に理由をまくしたて、無遠慮に詮索する。私自身巻き込まれてしまったことで、既に無関係とも言えず、説明の義務が、事情を知っているらしいアウラさんにはある。
 彼女もそれを理解しているようだが、それでも説明を迷っているといった風で俯いていた。
 そのまま、押し黙ってしまう。
 かなり面倒なことなのだろうか。せめて私側の面倒には巻き込まないようにしたいのだが。
「……神父様、さっき世間に疎いって言ったことと、巻き込んでしまったこと、今謝るわ。ごめんなさい」
「いえいえ、私は、疎そう、と言われた覚えはありますが、断言された覚えはありません。それに、『これ』も神の御心でしょう」
 頭を下げるアウラさんの肩に手を置く。いつか強ばっていたその細く小さな肩は、少しだけ力が抜けたようだった。
「貴男、変な神父さんね。神様も、信じていないみたい」
 顔を上げたアウラさんは花のように可憐な笑みを浮かべていた。細まった蒼月石(サファイア)の瞳が、少しだけ濡れている。
「ややっ! 変と言われたのは初めてですねえ。そんなことを言われますと、アウラさんのように泣いてしまいます」
 私の声でようやく気付き、慌てて目元を拭って、咳払いを一つ。そしてどこか威厳のある声で、
「説明はするわ。だけど、神父さんの名前は? さっきは聞きそびれたから」
 照れ隠しのように言う。そんな年頃の娘とは少し離れた仕草を笑いながら、私は改めて自己紹介をすることにした。
「私はルーザ。ルーザ・ロイデルです」
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