NoVEL V

□神(堕)の往く道
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「どう、なさいました、娘さん?」
 回復の兆しが見えない体調に内心舌を打つ。
「具合が悪い人を見ているのが趣味なの」
 ぬけぬけと言う少女の目は、本気で笑っている。
「それ、は、健全とは、言えない、しゅ、みですね」
 少女に向かって胃の中身を放射したくなる危険な衝動を抑えながら、力なく笑う。――吐いた方が楽になるかなぁなどと、若干抑えが利かなくなって来てはいるが。
「おにーさんに、あたしの趣味をどうこう言われる筋合いはないわ」
「私、を見て、楽しん、でいる、のです、から、少しは、あるかと……」
 無視したら何をされるか分からない。という脅迫観念から、神父は途切れがちの言葉を紡いでいく。顔は休む前よりも蒼く、色が抜けてしまったようだった。
 もう目を開けていることすら辛い。辛いが気合いで開ける。肩を揺さ振られたりしたら、もう衝動は抑えきれない。
「……あら、もう限界?」
 目ざといのか、彼のそんな様子の変化を見て取った少女はつまらなそうに訊ねた。
「えぇ、それ、なり……にね。もっと、寒、風に、当たりたい、気・分、です」
 神父は力なく答える。一人にしてほしいと思う本心を微かに匂わせて。
 プラットホームには、もう人もまばらだった。後は目の前の一人だけ。何やら急に自分の手提げ鞄を漁り始めた少女である。
「――あった! はい」
「は、い?」
「お薬。速効性よ」
 瞬間――何故かこの時だけ、神父の腕が獲物を捉える獣のように動いた。少女の視認を許さぬ速度で薬入りの瓶を受け取る(というより奪い取る)。
「ちょ――!」
 少女の声も聞かず、じゃらじゃらと手の平に錠剤を転がし、また成年四粒の注意書きも読まず、異様に尖った歯が並ぶ赤い口腔に、手の平から溢れんばかりに広がった白い薬を滝のように注ぎ入れる。
「ん、ぐ、ぐ――」
「……入れ過ぎよ」
 それを三秒かからず飲み下す神父に、僅かながら距離を開ける少女だった。
「いやぁ、お腹も空いていたものですから」
 いくら速効性でも瞬間作用ではない。彼の気分が良くなったのは、ほとんど錯覚によるものだった。
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