NoVEL V

□お礼文『神(堕)』
1ページ/8ページ


 春も盛りを過ぎた頃、私はとある街に向かっていた。次の面倒はそこで起きたから行けと――全く、相変わらず人遣いの荒い上層部には文句の一つも言いたくなる。
 海辺にあるレクシェルという名の街。そこが今回の仕事場のようだ。乗りたくもない列車をいくつか乗り継ぎ、日も落ちかけた夕方、気分最低迷で到着した。
 レクシェル駅のホームは海風に荒らされてお世辞にも綺麗とは言えない。ホームの屋根を支える鉄柱には赤錆が浮き、今に曲がってもおかしくはなさそうだ。――しかしここはオルディアの最西端の田舎だ、手が届かないのも無理はないだろう。
 それに、ホームは綺麗でなくとも、私の列車酔いとそれ故の最悪な気分は少しばかり和らげてくれるものがあった。
「ほう、これは……」
 燃える夕日に放たれる赤光(シャッコウ)。真円を描いて水平線へと落ちる神のごとき太陽の偉容。闇に乗り、蒼暗くなりかけた海を、紅に染め照らすその様は圧巻だった。
『神王クェルス、炎の神エムザ、空と海の神フィンス――貴方がたはお変りないようですね。私は、こうして今も続けています。彼女に会う日まで、私は続けるのでしょう』
 声ではない声で呟くと、気分も少しばかり落ち着いた。さて、では行くとしましょうか――。


 ホームを出ると全体的にふくよかな尼僧(シスター)が迎えてくれた。立てこんだ話は教会でしようということらしく、直ぐ様馬車に乗り込むこととなった。
 馬車の中、他愛のない世間話が続いた。新しい女王が即位したとか、そういった話だ。――きっとこの尼僧はお喋り好きなのだろう。そう思わせた。
 適度に受け答えつつ、走る馬車に揺られて数分した頃、窓から教会が見えてきた。潮風に晒されて傷んだ十字架が、この地域の信仰が浅いことを教えてくれるようだ。――馬車酔いにウンザリしながら思った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ