NoVEL V

□神(堕)の往く道
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 規則的に金属を打つ音が聞こえて来る。
 正面方向――王都の方から列車がやって来るようだ。音はまだ遠いが、余裕を持って避けていた方がいいだろう。
「アウラさん、少し線路から離れますよ。列車が来ます」
 アウラさんは頷きで応じる。歩き詰めで、さすがに口数も減っていた。
 ――それにしても、こんなところで、神父と尼僧が手を繋いで二人きり、などという状況は他人からすれば噂の種だ。駆け落ちなどと言われかねない。
 列車乗客に見咎められぬよう、ここは樹の裏にでも隠れていた方が無難だろう。アウラさんの休憩にもなる。
「はぁ……どれくらい、進んだかな?」
 アウラさんを太い根に座らせる。光の無い暗闇だ、この娘(コ)には足下も見えないだろうから、手を繋いだまま、慎重に。
「まだ中程にも至っていませんよ。徒歩でこの樹海を突破するには早くて十日ほどかかりますからね」
 それだけ広いのだ。実際に歩いてみれば、オルディア大陸の三分の一がこのヨンセルン樹海に塗り潰されていることに実感を持てる。
「駅の辺りを入り口として、そのまま進んで登りに入ったら第一地点です。今は入り口と第一地点との中間あたりでしょうね」
 言いながら、私も座る。いつまでもアウラさんに挙手させておくわけにもいかないからだ。
「――そうなの。先は長いのね」
 僅かに疲労が滲む声が返って来た。そこに、後悔や甘えはない。
「……ここの線路を敷いた人は、英雄ね」
 そして独り言のように呟いていた。
 ――遠く、列車の汽笛が鳴る。
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