NoVEL V

□神(堕)の往く道
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 艶やかな紺色の髪を流して火の明かり元から歩み出て来たのは、この教会市ゼーエンの教区を受け持つ女性大司教、セリス・ハーベリュート。年の頃は二十代も半ばも過ぎた、と関係者の間ではまことしやかに囁かれてはいるが定かではない。それを訊ねる勇気ある者がいない現状でもある。
 そんな無駄な詳細までも思い出したが、とりあえず怒ってはいなさそうな顔に安堵する。
「ルーザ君、キミはいつまでそんな格好を続けるんだね?」
「まだここが安全とは言い切れないので。失礼ながら」
 続けさせてもらう。私はどうも物事を悲観的に捉えがちのようだが、この際、それは貫いた方がよいだろう。セリスさんがオルダス軍に(というよりもハクツール伯爵に)協力を申し込まれている可能性も捨てきれないのだ。
「全く、いつもながら用心深くて女々しい男だね、キミは。大丈夫、我が教会はお嬢様を歓迎しますよ。むしろ、オルダスの連中の不法を追求したいくらいだ。武装した兵を街に何人も放ちおって」
 前半呆れ、後半怒りを混ぜ込んで言うセリスさん。更なる愚痴は、捜査に協力しない自分の身柄を拘束すると強攻策にまで出たオルダス軍に飛んだ。
「それで、大人しくはしなかったのですか」
「当たり前じゃないか。教会に軍が乗り込む時点で外交問題だぞ。その上大司教を捕らえようものなら、逆に奴等が宗教裁判で極刑だ。わたしは親切でやったのだ」
 何をやったかは敢(ア)えて訊かないことにしましょうか。私はともかく、アウラさんがその衝撃に耐えられるか分からない。
「ま、とにかく、キミたちが無事で何よりだ。えぇと、お嬢様は王女様で間違いないのかい?」
 私の後ろにいるアウラさんに問いかける。動物的勘でセリスさんの恐ろしさを知ったのか、アウラさんは握っていた私の長衣の裾を更に強く握った。
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