NoVEL V
□神(堕)の往く道
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「あーうーらーさーん」
駅からは十分に離れた。兵が追ってくる気配もない。もう声をあげても大丈夫だろう。
そんな計算の結果、私はあの妙な少女を呼んでみた。あまり遠くに――
「ゲブッ!?」
目の前が急に朱に染まった。何だか後頭部が痛い。というか重い……。
「神父様、あまり大きな声を出さないでね」
私の後頭部に片足を置く少女は、優し気なのに寒気の走るような声で言った。恐すぎます。
「アウラさん、いきなり上空から神父を襲撃するとは中々人間が出来ていますね」
朱い落葉に向けて口を開く。逃がしてあげたのに、この扱いは酷いのではなかろうか。だから皮肉を込めてみました。
「貴男は世間に疎そうだから、社会の厳しさを教えてあげたくて」
言いながら、ようやく私の後頭部から足を退けてくれた。人の頭をそうそう踏み付けてはいけませんよ、などと心の内で言っておいてみる。
「ふぅ、危うく鼻を折るところでしたよ、アウラさん。私に三つ指の心得がなければどうなっていたか」
一緒に転がった、"月夜"(ゲツヤ)も掴んで立ち上がり、私に飛び蹴りを炸裂させた少女に向き合った。――というには、少々身長差があったが。
私から見ると、小柄なアウラさんの綺麗な白金の髪が目元を隠し、その表情はよく分からない。ただ、口だけが、何か言いたそうに動いていた。
「どうなさいました?」
「……ううん、何でもないわ。それより、無事でよかった。ガイドがいなくなったらどうしようか心配したわ」
きっと心配してくれたのだろう。努めて明るい声をだそうとしていることが解る。だから私は、微笑みで応えた。
ただ、悠長に案内も出来なくなった。教会に行くだけだが、辿り着くまでの市街は安全とは言えない。
「そもそも、彼らはどうして貴方を追っているのです? 見たところ、オルダス軍のようでしたが」
オルダスと言った瞬間、びくりと、少女の肩が跳ね上がった。