NoVEL V

□神(堕)の往く道
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 正義感が強い娘(コ)なのだろう。コートの下の細い肩が震えている。――相手の意図が解っていて、それでも出ようとしていたようだ。
「我等が神は迷い子に慈悲深いのです。たとえそれが、一国の罪深き姫君(ヒメギミ)であろうとも」
 それにと、セリスさんは続ける。
「ヤツらは、きっと二、三日は来れませんよ。教会は暴力には決して屈しないのです。ふふ、ふフフ」
 私が痛めつけた隊長らしき人のこともあるが、セリスさんが言っていることは別らしい。
 ロウソクに照らし出された彼女の笑みは不気味だった。私に向けた謎の成分配合の笑みよりも、凶悪な<何か>が露骨に浮いている。炎のせいか、唇が毒花のように紅かった。
 ――思わず、たじろいだ。アウラさんも後ろからの不気味な声に肩を抱く。
「ん――、どうしたね?」
 その理由を本人だけが分かっていないらしい。首を傾げて紺の髪を流す。――自覚なくやっているのだと、私は今初めて知った。
「いいえ……」首を振り、アウラさんの背にを見つめる「とにかく、セリスさんが軍が暴力に訴えてきても大丈夫だと言うのです、私もその時は貴方を護りましょう。ですから少し落ち着いてください。アウラさんの心配は問題であっても問題にはなりませんよ」
 今だ振り向かないアウラさんに微笑みかけ、襟を掴んだ手は離した。彼女は進まない。
 ――ただ、軍を抜きにしても、教会に居ることができるのは、起こるであろうオルダスと教会との引き渡し交渉までの間、という不確定な期限付き。早めに次手を打たなければアウラさんは身柄をオルダスに引き渡され、――おそらくは生きられない。
「何事も難しく考えることはないさ。現実はシンプルな場合が多々あるからね。とりあえず、二人とも休みたまえ。ルーザ君、キミへの指令も急ぐものではないからね」
 確かに、私はともかく、アウラさんは疲れている筈だ。セリスさんには同意する。
「アウラさん、考えるのは明日にして休みましょう。今好意に甘えなければ、いざというときに動けませんよ」
「……うん」
 ようやく振り返ったアウラさんの顔は揺れる炎のせいか、陰鬱で、翳(カゲ)りが濃かった。
「食事と入浴、それに寝室の準備をしよう。あぁルーザ君の寝室はない。寝るならここで寝たまえよ」
 酷いことを言ってから聖堂の奥へと歩むセリスさんに、アウラさんを促して続く。警戒の証だった長衣も、双剣と銃を元に戻した"月夜"に収納した。
「ルーザ、……ごめん、もう少しよろしく。それと、ありがとう」
 背を押す私に、ポツリと、独白のようにアウラさんは呟いた。
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