NoVEL V

□神(堕)の往く道
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「しかしな」思わしくない顔付きでセリスさんはため息を吐(ツ)く。
「何か、問題でも?」
「うん、問題さ。さっきも言ったろう? この<教会>に乗り込んできたんだよ、ヤツらは」
 僅な怒りが混ぜ込まれた言葉は、ここが必ずしも安全ではないことを示唆(シサ)した。
「彼らとて、教会との外交問題にまで発展すれば不都合だろうに」
 オルダスでは教会との連携の上に軍事が成り立っているが、そこに問題が生じれば隣国――世界最大国家ギニスタに突け込まれる隙となる。セリスさんはそれを言いたいのだろう。
「その外交問題が起こりうる可能性を盾にしたアウラさんには、少々厄介ですね」
 なりふり構わないという手段に出られれば、このゼーエン教会とて安全な地とはなりえない。そうなってしまうと、アウラさんは、この国の内で安全を手にすることはできない、ということになる。――不吉な想像に頭を振った。
「……あたしがここにいたら、教会の人や街の人に迷惑を掛け、ますよね」
 白金の髪が揺れる。一瞬、言葉の意味を理解できず、振り返ったその蒼月石(サファイア)の瞳を見つめる。宿る決意の光。
「ルーザ、短い間だったけど、お世話になったわ。ありがとう」
 確かに短い。まだ半日もたっていないのだから。――そんな無駄な思考はいい。
「待ってください」
 失礼だが、早足で扉へ向かうアウラさんの後ろ襟をひっ掴む。
「ここで出ていっては、彼らの思うツボです。落ち着いてください」
「うん、早計は良くありませんよ、姫。今の貴方様の行動こそ、連中の狙いでしょうから」
 高貴な方――しかも女子――とも思えないような力で前進しようとしていたアウラさんが、力なく止まった。
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