君ヘノ想イ

□―起―
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第16代当主・伊達輝宗に呼ばれ、大森城主・伊達実元は米沢城へと向かっていた。

「急ぎの用とは、はて…」

思い当たる節もなく、では戦でも始まるのかと胸中で呟く。

着けば直ぐさま当主の元へと通され、待つこともなく目通りがかなう。

「ご健勝で何より…」

形だけの臣下の礼を取る。





上杉家への養子の話がうやむやにならなければ、実元の方が格上だったのだ。

伊達本家を牽制出来る、唯一の存在。

それが、伊達実元なのである。





「叔父上、良く参られました」

温和な人柄が滲み出る、その笑顔。

気性の激しい者の多い伊達家において、現当主は穏やかであった。

「早速の本題で済みませぬが、叔父上の息・時宗丸を預けて頂きたいのです」

「…時宗丸を??」

実元が、怪訝な顔付きになるのも仕方ない。

時宗丸とは、やっと出来た大切な嫡男なのだ。

―それを預けろとは…。

「…叔父上が、不審に思うのも仕方なく。大事な一人息子を、手放せと言っているようなものなのだから」

実元の細まった視線を浴びながら、その心中を察したように語り出す。

「私の息、梵天丸ですが…病で右目が見えなくなって以来、部屋に閉じこもるようになってしまって…」

梵天丸とは、伊達本家の嫡男だ。

何事もなければ、第17代当主となる。

二年前、痘瘡を患い死の淵をさ迷ったが、何とか一命を取り留めた…右目を代償として。

病に罹る前は、明るく活発な子供だったと実元も記憶している。





では、今は??





「…笑うこともなく、誰をも寄せ付けない子供になってしまったのです」

苦悩が顔に表れる。

「同じ年頃の遊び相手でもいれば、何か変わるかと思われて」

俯き気味の視線には、子を心配する親の想い。

「…あれはまだ六つゆえ、期待に応えることは出来ぬ」

預ける意味は解したが、可愛い盛りの子を手放すなど実元は考えたくもなかった。
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