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ONEPIECE×べるぜバブ
・はぐれた家族と出会った海賊
ふと気が付くと、男鹿辰巳は見知らぬ港に横になっていた。
「?…どこだ、ここは……」
起きたばかりでまだぼーっとする頭と目で周囲の様子を確認するが、やはり見覚えのない風景。だいだい、男鹿のすんでいる家は大都会とは言えないにしても、普通に住宅の広がる町中にある。したがって、今男鹿の視界に見えている船や海、白に近い色に澄んだ青空や、そこで弧を描きながら飛び回っている海鳥などは見えるはずがないのだ。
「やべぇな…家はどっちだ?」
ようやく意識がはっきりとしてきた。
とにかく、ここが家からかなり遠くの、「どっか知らねーとこ」にあって、自分はなぜかそんな土地の「やたら大きな旗の目立つ船がたくさんある変な港」に倒れていたのだ。と、男鹿にそこまで考えが至った瞬間(とき)――
「はっ…!!ベル坊がいねぇ!!!」
男鹿は常日頃から自分の頭の上、もしくは背中にいるはずの赤ん坊が見当たらないことに気づいた。
「おーーいベル坊ー!!ベル坊!!」
前後左右、ついでに上下までぐるっと見渡すが、ベル坊らしき子供の影すら見つからない。そして男鹿はあることを思い出した。
「そういやぁ…ヒルダもいねぇじゃねーか!」
いつも高圧的な態度で接してくる、ヒルダの姿がない。男鹿はいよいよ立ち上がって頭を抱えた。全く見知らぬ場所にたった一人。いや、そんなことよりもベル坊がここにいないという事実が、男鹿に冷や汗を流させた。
「ここはどこだあいつらがいねぇ俺は誰だー…男鹿辰巳だな、うんよし。落ち着け、落ち着くんだ俺!ベル坊はここにいないが俺は死んでねぇってことは、15メートル以内のどっか別の場所にいるはずだ…おぉ、ナイス俺!」
一人怪しくも言い聞かせるようにして独り言を呟く。
「ヒルダを探しに行ったら15メートルをオーバーして死ぬかもしんねぇしな……」
それに二人は一緒かもしれない。最優先事項はベル坊だと頷くと、男鹿は一番近くにあった大きな船に目を向けた。船首と見られる船の先端には、ひまわりのような、ライオンのような、珍しい形をした顔。
「…とりあえず行ってみるか」
とにかく動かなくては始まらない。男鹿はその船に向かって駆け出した。
**********
ところ変わってこちらはヒルダ。
「む…ここは一体…?」
男鹿と同様、ヒルダも辺りを見渡し首を傾げていた。
「坊っちゃまも男鹿もいないということは…アランドロンの転送が失敗したということか」
そう静かに分析しつつ、数分前の男鹿の部屋でのことを思い出してみる。
日曜の正午。ヒルダは午前のうちに家事をほとんど終え、主君であるベル坊のもとへと階段を上がった。ベル坊は常に男鹿と行動を共にするため、日曜日のこの時間は絶対と言っても良いほど、男鹿の部屋にいる。はたして、案の定そこに二人の姿があった。毎度のことながら、二人でテレビゲームに夢中であった。
ヒルダは気づかれないようそんな平和極まりない光景に小さく笑むと、ゆっくりと親子に近づいていった。
「……おい男鹿」
「…んだよヒルダか。今いいとこなんだから声かけんな」
男鹿はチラリとヒルダを一瞥しただけで、再び画面に視線を戻す。ベル坊は必死でコントローラーを操っている。
しかしそんな二人にも構わずヒルダは続ける。
「偶の日曜日だ。アランドロンを呼んでどこか坊っちゃまの楽しめる場所へ行くぞ」
「はぁ…!?なんだ急に!!」
「ダ?」
ヒルダの言葉に今度は目ざとく反応を示す男鹿。男鹿の声にびっくりして顔をあげるベル坊。
「毎日毎日部屋にこもりっきりでいては貴様のように脳が腐る。アランドロン!」
「腐ってねーよ!!…つーか俺は行くなんて了承…「お呼びですかな?」
突如ベッドの下から現れるアランドロン。男鹿の反対の言葉を見事に遮り、無駄にきまったポーズをしている。
「うむ。行き先は任せた。どこか坊っちゃまに喜んでいただけそうな所まで頼む」
「待て待て待て!!」
「では、行ってらっしゃいませ」
「ぎゃーーーー!!」
男鹿の静止虚しく、あっという間に三人はアランドロンの中に吸い込まれていった。
「ゴホンッ…少々熱っぽいですかな…?」
そして冒頭の男鹿、ヒルダに至る。
「とにかく…一刻も早く坊っちゃまのもとに行かなければ…!」
ヒルダは気を引き締め歩きだした。が――
「本当に一体ここはどこなのだ…?」
様々な店が所狭しと立ち並び、ものすごい数の行商人や人相の悪い男達、普通の家族達などが行き交う街の往来で、途方に暮れるヒルダであった。
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