Princess Mononoke
□花嫁 7
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あれから一週間、アシタカの森への訪れは途絶え、サンも森から出ることはなくなった。
傍目から見ればまるで、双方ともがつまらない意地の張り合いを続けているかのようだった。
事実アシタカもサンも、気が挫けて会いに行ったほうが負けだ、とでも思っているようだ。
ここのところ穴蔵でごろごろしてばかりいる不摂生な妹を、傍らで見守る山犬の兄には、少なくともそう思えた。
「サン。暇なら狩りにでも行ってきたらどうだ?」
「面倒くさい」
弟が昨日採ってきた木苺をひと摘み、胡座をかいて口に放り込みながら、サンは気のない返事をした。
兄は呆れたように小さく鼻を鳴らす。
「そろそろ干肉を作った方がいいんじゃないか?近頃、お前がそうして食っちゃ寝してるせいで、干肉の消耗がやけに早いぞ」
「う、うるさい」
「ろくに狩りもせずにそうして食ってばかりいると、ブクブク太るぞ」
「うるさいったら!」
今まさに口の中に放り込もうとした木苺を、先がギザギザした葉の上に戻して、サンはばつが悪そうにそっぽを向いた。
やれやれ、と山犬の兄は足で首を掻く。
「ところで、サン。お前はあの話について、どう考えている?」
「あの話って?」
「お前がシシ神の妻になるという話だ」
サンは藁の寝床に仰向けになって、大きく欠伸した。
「シシ神様は本気で言ったわけじゃないだろう。私のことが物珍しくて、からかったに違いないよ」
「そうだろうか。俺はそうは思わなかったが」
ばかばかしい、と言わんばかりにサンは鼻を鳴らす。
「シシ神様がなぜ私を?何の得もないだろうに」
「さあ。お前が美しいからじゃないか?」
「……」
兄の悪戯が過ぎたようだ。
「ふざけたことを言うな。鳥肌が立つ」
サンはますます機嫌をそこねた様子だった。
──美しい。
今のサンにとっては、禁句である。
「とにかく一度、新しいシシ神に会いに行ってみたらどうだ?」
兄の提案に、サンは難色を示した。
「シシ神様は神聖なお方だろう。おいそれと会いに行っていいのか?」
「向こうがお前を望んでいるのだ。挨拶に行ったところで、悪いようにはされないだろうさ」
「うーん、そうか」
サンは気乗りがしないようだったが、木苺を口に含みながら、
「なら、そうしてみよう」
真珠色の大ぶりの耳飾りが、その耳元で小さく揺れた。
【続】